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168話 自己犠牲



《岡谷Side》



 あかりたちの実家に来ている、俺。

 彼女らの親……禿男はとんでもないやつだった。


 娘達を脅迫し、強姦しようとしていた。さらに、家では大量の動物を飼い、販売していた。


 こんな地獄のような環境に彼女らがいたのだ。

 くそ……もっと早くに知っておけば、もっと早くに……楽にできたのに、と悔やむばかりだ。


 だが……今はもう良い。過去はどうでも良いのだ。未来のことについて、考えよう。


「もうあんたはおしまいよ!」


 あかりは禿男の悪事を全て録音していた。

 これを警察に提出すれば、もうこいつはおしまいだろう。


「ぐ……く、くそぉおおお!」


 たっ、と禿男が逃げる。だが、玄関とは逆方向だ。


「待て……!」


 ここで逃げられたら駄目だ。

 こいつはきちんと社会的な制裁を受けさせなければいけない。


 やつは台所までやってくると、くるりときびすを返す。


「ち、近づくなぁ……! 死にたくなきゃなぁ……!」


 ガタガタ震えながら、包丁を構える禿男。

 相当に追い詰められてるのだろう。


「そんなことしても無駄だ。おまえはもう終わりなんだよ」

「ううう、うるせええええええ!」


 禿男が俺に向かって包丁をかまえ、突進してくる。

 ここで避けたら、あの子達にも被害が及ぶ。

 ……ならば。

 俺は……。


 ザシュッ!


「なっ!?」


 鋭い痛みが俺の体に走る。

 腹のあたりが、燃えるように……熱い。


「おかりん!」「せんせえ!」


 あかりたちの悲鳴が聞こえる。……すまん、だが、こうするのがいいんだ。


「三郎……さん!」

「おしきたぁ!」


 ばんっ! と玄関のほうから……ドアが乱暴に開けられる音がした。


「ていやっ!」

「ぐげえええ!」


 ……どさり、という音がする。多分……三郎さんがやつを捕らえてくれたのだろう。

 ……これでいい。


「おかりん! どうしてこんなこと!?」


 あかりが涙を流してる。

 俺は……その涙を拭う。


「おまえたちを……あの男から解放するため……だよ……」


 やつは、色々な悪事をした。だが、あかりたちの場合は強姦未遂。

 動物については、動物愛護法はで、そこまで厳しく罰せられることができない。


 ……だから、こうするしかない。

 

「せんせえ! 死なないで! せんせえ!」

 

 泣きじゃくる菜々子に、俺は笑いかける。……大丈夫、と。しかしそう言いたくても、俺の声は……出ない。


 俺の意識が暗く沈んでいく。……俺は、気を失うのだった。

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