153話 諦めないで
《あかりSide》
喫茶店の外にて。
あかりは、完全に岡谷を諦めようとしていた。だが、それを姉が止めたのだ。
「諦めちゃ駄目って……何言ってるのさ。お姉」
「言葉通りだよ。せんせいのこと、諦めて、一花さんに譲っちゃ駄目だって」
「…………」
姉は何を言ってるのだろう。
「お姉……バカなの?」
つい、姉に対して強い言葉を、傷つける言葉を言ってしまった。
言ってから罪悪感を覚えるも……けれど、一度口にしたら、言葉は止まらなかった。
「一花ちゃんは、おかりんのこと、支えてあげられてる。一方で子供のアタシは、おかりんに迷惑かけてばかり! どっちがあの人に相応しい人かなんて明白じゃん! もう試合終了なんだよ! ゲームオーバーなんだよ! どうあがいたって……アタシじゃ、駄目なんだよ……!」
姉に言葉を投げかける。
気の弱い姉のことだ。きっとこうやって言えば萎縮して、何も言えなくなるはず……。
「何がゲームオーバーなの?」
はっ、とあかりは顔を上げる。
姉はまっすぐに妹を見ていた。いつもおどおどしてて、あかりの後ろに隠れている菜々子が……。
今はあかりの前に立ち、しっかりと、こちらを見ている。逃げようとしない、そんな姿勢に、逆にあかりは目をそらしてしまう。
「……終わりだよ」
「まだ、何も始まってないよ?」
「終わりなんだよ! なんでわからないの!?」
「全然わからない。あかりちゃん。あなたが諦める理由は?」
「言ったじゃん! アタシはおかりんに迷惑しかかけてないって!」
「そんなことないよ」
声を荒らげる自分とは対照的に、姉はどこまでも、冷静だった。
「あかりちゃんは、せんせえのことずっと支えてるよ。美味しいご飯作ったり、家のことしたり。せんせえ、いつも言ってたもん。助かっているって」
「…………」
姉を疑う気はない。姉はこういうとき、嘘を絶対に言わない人だと、妹である自分はよく知っている。
「……ほんと? ほんとに、おかりんそういってた?」
「うん。言ってた。精神的な支えにはなれなくても、あかりちゃんは、ちゃんとせんせえのこと、支えてるよ。それに……わたしたち全員、あかりちゃんに感謝してる」
感謝……?
「暫定カノジョ。今の関係だって、あかりちゃんが提案してくれたことでしょ?」
全員で岡谷のカノジョになる、という提案をしたのは、たしかにあかりだ。
「わたしも、るーちゃんも、みどりちゃんも……みんな。あかりちゃんの提案があったから、一番好きな人と、暫定とはいえ、カノジョになれた。みんな感謝してる。わたしたちだけでなく……せんせえも、きっと」
姉たちが感謝するのはまあわからなくもないが……。
岡谷が感謝するとは、どういうことだろうか。
「せんせえ、優柔不断なところあるでしょう? だから、きっと一人に決められないよ。今も、この先も、ずっと」
姉は、はっきりそう断定した。
「そ、そうかな……」
「そうだよ。だって、せんせえ……というか、男の人って、そういうところあるから。優柔不断なとこ」
「ほんとに?」
「うん。もしも一花さんのこと、一途に思ってるんだったら、あかりちゃんのこと、抱いたりしないでしょ?」
……言われてみればそうだった。
姉の言葉に説得力が生まれる。
「あかりちゃんは、いろんな人助けてるよ。支えてる。だから、卑屈になることないよ」