152話 諦めたら
《あかりSide》
……喫茶店にて、岡谷と一花の会話を、あかりは聞いていた。
「…………」
あかりはぎゅっ、と唇をかみしめると、その場からそそくさと退散する。
喫茶店の扉をくぐりぬけて、ふぅ……と小さく息をついた。
「こりゃ……勝ち目、ないなぁ……」
言うまでも無く、一花にである。
自分は子供で、いつだって岡谷に守ってもらっていた。岡谷の悩みを、どうにかすることは、子供である自分にはできない。
一方、一花はきちんと岡谷の悩みを聞いてあげられる。解決のためにいろいろ考えてあげられる。……そして何より、岡谷が他の女とやっていたとしても、許してあげる広い心がある。
「やっぱり、そうだよね。おかりんに相応しいのは……大人の女性だよ」
あかりは自分にそう言い聞かせる。
「そうだよ……うん。そうなんだよ……だから……」
だから、自分は立ち去るのが一番だ。
あかりは帰ろうとする。が、その手を誰かが握りしめた。
「あかりちゃん……」
「お姉……」
あかりのふたごの姉、伊那 菜々子。
「どうしたのさ、お姉。こんなとこで……わぷっ」
菜々子は妹のことを正面から抱きしめる。
ぎゅっ、と強く抱きしめる。
「な、なに?」
「あかりちゃんが心配で、付けてきたの」
「………………そか」
どうやら姉はあかりの様子が変なことに気づいていたらしい。
「……せんせえのこと、諦めるの?」
独り言すら聞かれてしまったようだ。
あかりはにぱっと笑う。
「うん! これではっきりしたしね。子供のあたしじゃ、おかりんの足しか引っ張らないって」
これでいいのだ。
これが、最良の選択だ。
「あとは一花ちゃんに任せて、あたしらはサクッと退散しましょ~?」
すると菜々子はまっすぐ妹の目を見て、フルフルと首を振る。
「駄目だよ、あかりちゃん。諦めちゃ、駄目だよ!」