151話 愛
俺は駅前の喫茶店へとやってきた。
いつも打ち合わせに使ってる、【あるくま】という喫茶店だ。
一花はスーツ姿だった。仕事中でも、彼女はすぐに来てくれる。
本当に優しい人だ。……だからこそ。
俺は一花にすべてを語った。
木曽川たちの件は高原氏が処理したと。
あかりを慰めるために、彼女を抱いたこと。
「すまん、一花」
「…………」
俺は一花に、けじめを付けるとか、かっこいいことを言っていた。
でも結局は、あかりを抱いてしまった。かなり最低なことをしてるのは自覚してる。
だから……。
「俺と……」
「それは、だめ」
「一花……」
一花はフルフルと首を振った。
彼女がまっすぐ俺を見やる。彼女は微笑んでいた。
「大丈夫。あたし……岡谷……ううん、光彦くんのこと、わかってるから。大丈夫。怯えていたあかりちゃんを、慰めるために抱いてあげたんでしょ?」
「…………ああ」
「じゃあ、いいよ」
「よくないだろ。俺は……おまえと……」
一花を選び、この先生きていこうと思った。でも、結局……。
「やってるのは、木曽川と同じだよ、俺は。大事な人がいるくせに、他の女を抱いてる」
「ううん、違うよ。全然違うよ。光彦君は、あの人と違う。怯えていた子を慰めるために、優しく抱いてあげたんじゃない。自分の欲望を満たすためだけに、女を抱いていたあいつとは……違うよ」
……一花。
彼女は本当に、俺を責めようとしない。優しい人だ。だからこそ……。
「ありがとう。でも……やっぱりおまえは、もっと良い男のそばにいるべきだよ」
こんな、優柔不断な、妻の浮気にも気づかないような、窓際編集より……。
一花にはぴったりな人が居るって、絶対。
「じゃあ、それは君の隣だよ」
「一花……」
「大丈夫! 光彦君がどんな人でも、君が君なら、あたしは君を受け入れるから。君の、駄目なところも、全部含めて……」
一花は俺の手を握って微笑む。
「あたしは、光彦君を愛してるよ」