１４６話 木曽川、懲役９０日の真実
【※読者の皆様へ】
今回のあとがきは、
「全ての読者様」にお読みいただきたいです！
1分も掛からないので、最後まで目を通してくだると幸いです。
「おかしい……どうなってんだ……？ おれは、おれは……死刑になったはずじゃ……？」
木曽川は牢屋の中で首をかしげる。
壁にあったはずの【正】の字もなくなっていた。
「いったい……どうなって……？」
「おい９３０番、出ろ……！」
鉄格子の向こうに現れたのは、あの男。
自分を痛めつけた看守だ！
「お、おまえ……！？ どうなってんだよ！ おれは……死刑になったはずだろう！？」
しかし、看守は「何をバカなことを」といってせせら笑う。
「おまえはこれから、地獄の苦しみを味わうんだよ。出ろ……！」
牢屋の扉が開く。
看守の部下が木曽川を拘束し、外に連れ出そうとする。
……脳裏をよぎるのは、あの拷問。
炎天下の中、９０日間、ずっと痛めつけられた……。
まさか、またアレをやるって言うんじゃないだろうか。
「い、いや……いやだ……！いやだぁ……！」
だが泣いてわめいても、看守の部下たちは木曽川をとらえ、そして牢屋の外へと連れ出す。
「今日も良い天気だなぁ～。ええ、９３０番」
「いやだ！ 離してくれ！ もう嫌だ……！」
木曽川は見てしまった。
遠くに……十字架があった。
アレに縛り付けられ、そして炎天下の中、ひたすらに痛めつけられる……！
「いやだ！ もういやだ……いやだぁああああああああああ！」
……しかし、木曽川の抵抗むなしく、彼はまた日没まで、痛めつけられた。
そして日没後、木曽川はまた牢屋に戻される。
「はあ……はあ……まさか……また……９０日を繰り返すんじゃないよな……？」
そのまさかであった。
木曽川はまた、９０日間、朝から夜までずっと拷問を受けた。
そして、９０日後。
「９３０番。おまえは死刑だ」
やっぱりそうだ。
木曽川は抵抗する。
またも、あの部屋に連れて行かれた。
部屋の天井からつるされているロープに、クビをくくられる。
「いやだ！ 助けて！ いやだぁあああああああああああ！」
がたんっ！
床の蓋が開いて、首が絞まる。
息が出来なくなり……木曽川は死んだ……。
★
「かはっ！ はぁ……はぁ……はぁ……」
「目覚めたか、木曽川よ」
「か、開田高原……」
またも、木曽川はベッドで寝かされていた。
壁の時計は、【９時２分】を示していた。
「な、なあ……さっきのはなんだったのだよ！？ ９０日間は夢だったのかよ！？」
「そうだな。すごく精巧な夢……といえるかもしれないな。おい」
高原が命令すると、科学者が近づいてきた。
その手には注射器が握られている。
「この薬は、【達人薬】という」
「達人……？ 薬……？」
「聞いたことはないか？ 武の達人同士の試合の時に、１秒間が何倍にも引き延ばされてる感じがする……と」
確か……そんなことを聞いたことがある気がする。
「達人薬を使えば、その達人と同じ、時間を何倍にも引き延ばす感覚が手に入るのだ。貴様にとっての９０日間が、こちらの現実で１分となる」
「な、なぁ！？ なんだよそれはぁ……！？ １分が９０日だと！？」
はっ……! と木曽川は気づかされる。
「お、おい……懲役９０日って……ま、まさか……こっちの時間で……」
「そうじゃ。こちらの時間で９０日、じゃ。貴様はあと、８９日、２３時間、５８分の……懲役が残されておる」
こちらの１分が９０日。
１時間が５４００日。
１日が１２９６００日（約３６０年）
つまり……。
「貴様はあと、約３２４００年……あの地獄の苦しみを、味わうことになるのじゃ」
「さ、三万……二千……年……だとぉ……」
絶望の表情を浮かべる木曽川。
あの苦しみを、３万年繰り返したら……。
頭がおかしくなるどころのレベルじゃない。
「やだぁあああああああああ！ いやだぁあああああああああああああああああああああああああああああああああ！」
泣きわめく木曽川。
あと３万年。そんな気が遠くなるほどの時間、あの地獄の責め苦を食らうのだ。
そんなの……耐えられるわけがない。
「お願いしますぅ！ 助けてください！ お願いしますぅううううううう！」
「やれ」
開田高原は、もはや木曽川に対して何も言わない。
ただ、苦しみを与えるだけ。罰を与えるだけだ。
「いやぁああああああああ！ いやぁああああああああああああああああああああああああああああああ！」
……木曽川がまた注射を打たれる。
また、９０日を繰り返す。
刑期が終わるまで……何度も、何度も……。
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