144話 さよなら、十二兼
十二兼敏恵は、目を覚ます。
彼女が目を開けて直ぐに感じたのは、違和感だった。
「ここ……どこなの……?」
狭い箱の中のようだ。
立ち上がろうとして……ふわ……と。
「は!?」
体が浮遊した感覚に、十二兼は戸惑いを覚える。
明らかに、体が変だ。なんだこれは……? 一体何が起きてるのだ!?
『おはよう、愚かなる編集者よ』
どこからか、老人の声が聞こえてきた。 自分を捕まえた老人……開田高原の声だ!
「ここはどこなの!?」
『ふむ……わからぬのか。では、外の様子を見せてやろう』
「な…………!?」
十二兼は、部屋にしつらえてあった、モニターを見やる。
「なに……これ? 夜……?」
いや、夜空ではない。
明らかに見える景色が、地上で見えるものではない。
『十二兼。貴様には、人類の進歩に役立ってもらうことにしたよ』
「あ……な……こ……ここ……まさか……!」
モニターに映し出されたのは、青い星。地球。
「まさか……嘘でしょ!? わ、わたし……宇宙に!?」
彼女は宇宙空間にいるようだ。
……自分でそれを言って、未だ信じられない。
『わしの知り合いに、宇宙開発に力を出してるやつがいての。そやつに、モルモットとして、貴様を貸してやることにしたのじゃ』
「も……!? な、なによそれ!!? 非人道的すぎじゃない!!!!!!」
叫ぶ十二兼だが、しかし高原は続ける。
『水も食料もきちんと用意してある。どこが非人道的なのだ?』
「いきなり拉致して! いきなり宇宙に連れって! 人体実験させるなんて! せめて事前にいいなさいよ! 了承も得ずに、放り出すなんて理不尽よ!」
『ほぅ……そうか。貴様も岡谷光彦のことを、いきなりクビにしたそうじゃないか?』
「あ……」
そのとおりだ。
木曽川にそそのかされて、その言葉を信じて、岡谷の事情を聞かずにクビにした。
『わしがやったのは、貴様のやったことと同じだ。相手の事情を聞かず、いきなり酷い環境に放り出した』
「あ、いや……それは……」
『やったら、やりかえされる。当然じゃろ?』
「う……あ……うう……」
十二兼は涙を流す。
ぽろぽろと……涙が宙に浮く。
『貴様にはこれから、宇宙で人が住むための、実験材料として生きてもらう。この先ずっと』
「そ、んなぁ……やだぁ……! ねえ……かえしてよぉお! かえしてぇ!」
泣いて懇願しても、開田高原が考えを変えることはない。
『貴様は家族を傷つけた。わしにとって、家族は特別なもの。それを傷つけたのじゃ。当然の報いじゃ』
「ごめんなさぁい! ごめんなぁさぁい! 反省してますぅううううう!」
こんな、地球の外で死ぬまで、実験材料として扱われるのなんて嫌だ!
『ならば、なぜ岡谷にまた酷いことをしようとした?』
「あ、あれはぁ……!」
『貴様が心から反省してるのであれば、木曽川の手先となることもなかったじゃろう。貴様の醜い性根は、死んでも治らぬ。ならば……そこで、死ね』
ぶつん! と通信が切れる。
十二兼は……ただただ、絶望した。
この宇宙空間。
誰もいない、一人きりの空間で、死ぬまで過ごすことになる。
目の前に帰りたい場所があるのに、決して帰れない。
この暗い、狭い空間で……死ぬまで……。
「どうしてぇ……どうして、こんな……こんなぁ……うううううぅう! うあわああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
十二兼の悲鳴が、岡谷のもとに届くことは決してない。
そのうち十二兼は泣くのを辞めた。
彼女は死ぬまで、岡谷をクビにしたことを……悔い続けたという。
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