142話 元妻、絶望に至るまでの経緯
《ミサエ視点》
……岡谷ミサエ。今は離婚して、長野ミサエとなっている。
彼女は、木曽川の話しにのって、岡谷をストーキングしていた。
『あのクソ野郎は今、女複数人囲ってくらしてるらしい。しかも太いパイプがあるようだ。ひひ……その証拠を掴んでゆすれば、多額の金が手に入るぜぇ!』
……ミサエは信じられなかった。
あの、冴えないと思っていた、元夫に、複数の女がいるだって?
『……そんなのでたらめでしょ?』
『でたらめかどうかは、調べてみりゃわかるだろぉ? え、それにさぁ、あんた悔しくないのぉ? あのクソ旦那に全部を奪われてさぁ。復讐したいって、思わないのぉ?』
……思わないのか、だって?
思うに決まってる。
あいつは……。
岡谷は……。
『そうね。あたしが、こんなに苦労するはめになったのは、あの男のせいだものね……!』
……あれだけ酷い目にあって、その原因をすべて、岡谷に押しつけることにしたのだ。
なんとも愚か、と彼女を叱って、正しい方向へ導いてくれる人間は、周りには居なかった。
そして木曽川に協力することになったミサエ。
たしかに、調べてみると、岡谷が高級マンションに住んで、しかも複数の美少女・美女と住んでいることがわかった。
『……あの男! あたしのこと浮気だなんだと、ののしっておいて! 自分だって複数の女を囲ってるじゃないの!』
……まあ、当時のミサエと今の岡谷とが、同じ立場では決してない。
ミサエはきちんと、岡谷と婚姻関係を結んでいるにもかかわらず、浮気をしていた。
一方で、岡谷は別に誰とも結婚していないし、なんだったら正式に付き合ってるわけでもない(暫定カノジョ)。
それゆえ、ミサエのほうが、社会的に悪いことをしてるのだが(岡谷の行為が倫理的にアウトなのはともかくとして)。
『岡谷を……地獄に引きずり下ろしてやるぅ!』
……ミサエは、十二兼とともに、彼らの私生活を盗撮しまくった。
スキャンダルの証拠を集め、そして、しかるべきところに提出。
最近ではSNSで、暴露系というものが流行っている。
今は個人で、情報を発信できる時代なのだ。
そこに情報を流せば、岡谷の社会的信用は地に落ちる!
『ざまぁ見ろ岡谷ぁ……! あたしを捨てた報いだぁ……!』
……くどいようだが、そうなった原因はそもそもミサエにあるのだが。
こうして、ミサエは木曽川の手先となって、岡谷をストーキングし……今に至る。
……そのやってる行為が、虎の尾を踏み、逆鱗に触れてることも、愚かにも知らずに。
少し調べれば、岡谷の背後に誰がいるなんて、わかっただろうに。
彼の後ろには、虎や龍が可愛く見えるほどの……。
化け物が、いるということに。
……今、それに気づいたところで、もう遅いのだ。