134話 あかりの将来
家路につく前に、あかりから連絡があった。
『おかり~ん、ちょっと迎えにきてもらえないかな~?』
あかりは現在、駅前の喫茶店でバイトしてるはずである。
迎えに来て欲しい、と向こうから言ってきたのはじめてだ。
……あかりは陽気なやつだ。
でも何か辛いことがあったとき、あいつは必ず、本心を隠す。
俺はさっきのラインの文面から、あかりの身に何か不幸な出来事が降りかかっている。
そう思って、急いでバイト先へとやってきた。
駅前にある、【喫茶あるくま】にて。
からんからん♪
「いらっしゃいませーん♡」
2メートル近くある巨漢が、俺を出迎えてくれた。
俺はここをよく利用してるから、相手がここのオーナーであることは知っていた。
し、向こうも俺を知っていた。
「あらん、あかりちゃんのカレシじゃない♡」
どうやらこの人には、俺とあかりが付き合っていることを知られているようだ(暫定カレシだが)
「こんばんは。その……伊那はおりますか?」
俺がそう言うと、すっ、と彼が目を細める。
「ええ、バッグヤードにおりますよん。さ、どうぞ」
オーナーはスイングドアをあけて、中に入れてくれた。
俺は急いで事務所へ向かう。
「あかり!」
「うぉおあ! お、おかりん!?」
休憩室にもなっているそこには、あかりがいた。
テーブルの上に、何かテキストを広げている。
あかりは俺がここにきたことに、驚いてる様子だった。
「び、びっくりした~。なんでここに? ラインしてくれれば、外に出て行ったのに」
どうやら驚いたのは、俺が事務所のなかまでやってきたことに対してだったらしい。
「すまん……なんだか胸騒ぎがしてな。……って、それなにしてるんだ?」
テーブルの上には、テキストが開かれていた。
あかりはばつの悪そうな顔をして「まー……いいじゃんべつに~」とごまかす。
俺はテキストを持ち上げる。
【N大学 栄養学科】と書いてあった。
「おまえ……これ過去問……?」
「う、うん……」
栄養学科、ということはつまり、管理栄養士にでもなりたいのだろうか……?
あかり、勉強苦手というか嫌いだからてっきり大学へはいかないと思っていたが……。
「もうっ、返してよ、おかりんのえっち~!」
あかりが過去問をばっと奪い取り、カバンの中に入れる。
……そっか、あかりも将来を考えているんだな。
それに比べて俺は……っといけないな。
「あかり。おまえ、どうした? 迎えに来て欲しいだなんて」
「ん~……。え、っとぉ……ほら、カレシと一緒に帰りたいー……」
あかりが作り笑いを浮かべる。
小学校の頃から、この子を知ってる。
だから、あかりが嘘をつくときの癖はわかっている。
こいつは嘘をつくとき、髪の毛をいじりながら、目線を反らすんだ。
俺が嘘を見抜いてると、あかりも察したのか、観念したように言う。
「……自意識過剰かも、って笑われるかもしれないないけどさ」
「笑わない。言ってごらん」
あかりがちら、と喫茶店のほうをみながら、小声で言う。
「……ストーカーに、着けられてるかもしんない」