130話 眩しい
喫茶店にて、るしあと打ち合わせしてる。
思い悩む彼女に、俺はアドバイスを送る。
「おまえの作品を楽しみにしてる、読者がいる。その人らを捨てるのはよくない」
「……それ、は」
ぎゅっ、とるしあが唇を噛む。
そんなこと、彼女が一番わかっているのだ。
彼女は読者を、なにより、自分の書いた作品を大事にするタイプだ。
自分がやろうとしてること(投げ出して新作を書こうとすること)が、読者に、なにより自分にとってよろしくないことくらい、百も承知だろう。
釈迦に説法……ではないが、でも、編集として言わないといけない。
「俺はここで投げ出さない方が良いと思う」
「……そうだな」
「ただ……」
彼女に、作家として上へ行きたいという気持ちが芽生えたこと。これは、良いことだと思う。
今までは、そういうのがまるでなかった。
でも今はじめて、彼女は作家としての目標を得た。それはそれでいいことだとおもう。
「新作やるなら、今の作品も継続しつつだな」
「! いいのか……?」
るしあが目を丸くしている。
どうやら新作書くな、といってるふうに聞こえてしまったのだろう。
不安げな彼女を、励ますように、俺は笑って言う。
「ああ。ただし、今の作品を継続しつつ、だな」
「うむ! わかった! ワタシは頑張るぞ!」
ふすふす、とるしあが鼻息を荒くしながら言う。
「ワタシは頑張るぞ! よりたくさんの人に、ワタシ【たち】の作品を、読んでもらうために!」
るしあは吹っ切れたのか、実に良い笑顔をうかべていた。
キラキラ、とその笑顔は輝いているように見える。
前へ進もうとする彼女。
……前に進めない自分からすれば、まぶしすぎて、彼女の目を直視できないのだった。