126話 欲
深夜、三郎君にはめられた俺と一花は、隣県のラブホテルに来ていた。
一花はこんな時でもテキパキ動く。初めて利用するラブホだというのに、すぐにシステムを理解し、部屋を取ってくれた。
エレベーターに乗り、目的の部屋に着くと……一花が情熱的に俺を求めてきた。
俺は彼女の甘い匂いと、彼女がもたらす快楽にただ流されていた……。
「ご、ごめんなさい、岡谷君……盛り上がりすぎてその……」
一花が落ち着いたのは、深夜を回り、明け方だった。
それまで一花は無我夢中で俺をむさぼっていた。飢えた肉食獣かと思うほどだった。
「謝る必要はないだろ」
本当に嫌だ、とは思わなかった。一花がもたらす、心地よい感覚に、ずっと身を委ねたいと思っていたのは事実だ。
一花は恥ずかしそうにみじろぐ。
「あ……」
一花はからになったゴムの箱を見て、小さくつぶやく。
「岡谷君ってさ、真面目だよね。するときいつもゴム使うし……それに、あたし以外のときも、絶対につけるし」
「当然だろ」
当然のマナーだと思う。
子作りは責任の伴う行為だ。まだ俺には、その責任を背負う覚悟がない。
「無責任に出さない岡谷君、かっ、かっこいい……」
「……褒められてる感じがしないが、ありがとう」
「褒めてるよ。それに……岡谷君の愛情感じる。大事にしてくれてるんだって……」
「当たり前だろ。俺は、一花も大事だよ」
一花もるしあも、暫定彼女たち全員、俺にとって大事な人だ。
「…………」
すると一花が体を起こして、真面目な顔で言う。
「一花、だけ、って言ってくれないんだね」
一花は本当に寂しそうな顔をしていた。
その顔を見て、俺は自分のふがいなさを痛感させられる。一人に決められない、情けない男。そう思われ、ののしられても、仕方ない状況に俺がいる。
「すまない」
「ううん。いいよ。あたしも……岡谷君と一緒。一人に選んでほしいって思ってるだけで、実行できない。腰抜けだ……って、別に岡谷君が腰抜けって意味じゃあなくってね!」
わたわた、と一花が慌てる。
「わかってるよ。おまえが人を傷つけない性格だってことは」
「あ、あはは……ありがと。時と場合によるかな。あと相手も……」
ボディガードしてるんだったな。たしかに時に人を傷つけることも必要かも知れない。
「ねえ……岡谷君。これからどうするの?」
「これから……か」
「白馬君も結婚した。あたしたち、もうすぐ30だし。そろそろ次を見据えないと行けない年齢になってきてるって……思わない?」
……次。
つまり、結ばれた後のことを言ってるのだろう。
結婚し、子供をもうけて、育てる。
男は良いが、女性の場合は年齢を重ねるほど、子作り・子育てのリスクが大きくなると聞く。
思わない、って聞き方をするっていうことは、少なくとも一花はそう思ってるんだろう。
「俺だって……わかってる」
いつまでもこの生ぬるい関係に甘えてていいわけではないと。
あかりたちJKにも、るしあにも、自分の人生がある。早めに決断しないと、彼女らの人生を狂わせることになる……いやもうすでに、だいぶまともじゃなくしてる。
「あ、あたし……あたしね。白馬君が結婚するって聞いてね……。すごく、さみしかった。羨ましかったよ。いいなぁって……」
一花が俺の手を取って言う。
「ねえ……岡谷君。全部捨ててこのまま……あたしと二人で遠くに、逃げない?」