125話 お願い
酒場を出たあと。
「お、おかやくんっ。これからその……ど、どうする? まだその……夜も更けてないけど……その、私その、このあと別に予定とかないからその……」
「ああ……帰るか」
「え……あ、そ、そうね……」
俺と一花は帰路につくことにしたのだが。
「こんちゃーっす。姉ちゃん!」
「さ、三郎? あんた何してるのよ」
ちょうど酒場を出たあたりで、一花の弟、贄川三郎くんがそこにいたのだ。
サングラスをかけて、スーツ姿の目立つ風貌。
しかし俺たちを見て、にかっと笑うと、気さくに話しかけてくる。
「やーやー、兄さんお久しぶりっす!」
「どうも。どうしたんだ?」
「姉ちゃんたちを送迎的な」
「送迎? そもそも君はどうして、俺たちがここにいるって知ってるんだ?」
「とーちょ……ごほんげほん。ま、家族パワー的な!」
……不穏なワードが若干聞こえた気がする。
一花はハァ……とため息をつく。
「いいわ。送ってちょうだい。岡谷くん、乗せてもらおう?」
「ああ……そうだな……」
まあせっかく来てもらったし(どうやって知ったかはわからんが)、断って帰らせるのも悪いな。
俺はありがたく、三郎くんに家まで送ってもらおうとしたのだが……。
ほどなくして。
「ほい、到着!」
「え、ちょっと!? 三郎!? ここってあんた……」
「いっけねー☆ つい間違って郊外のラブホテルまできちまったい☆」
……都内からだいぶ離れた、隣県のラブホテルへとやってきた俺たち。
三郎くんが道を間違えた……とはさすがに思わないが。
「あ、高原様?」
そのとき、三郎くんがスマホを取り出す。
「あー、おれおれ。うんうん。えー! まじか! 高原様が、鳥インフルエンザにかかって死にそう!? それは大変だぁ!」
三郎くんは俺たちを下ろすと……。
「悪いねねーちゃん! 高原様が鳥インフルで危篤状態らしいから! 迎えがくるまえに迎えにいってくる!」
「ちょ、ちょっと!」
「じゃ! ぐっどらーく!」
三郎くんは俺たちを残して、どこへと去って行った。
……ちなみに終電はとっくに過ぎてる(無駄にここにくるまで時間かかったし)。
残されたのは、俺と一花。
そして目の前にはラブホテル……。
「…………」
一花が顔を真っ赤にして、俺の腕を引っ張っていた。
俺のことを潤んだ目で見上げてくる。
一花は背が高いが、俺のほうがまだ上なのだ。
「…………」
ここまでお膳立てされて、一花が何を期待してるのか、わからないほどバカではないと思う。
「……俺は」
でも俺は、今の不健全な関係を、どう受け止めるべきかと考え、彷徨っている最中にある。
「……お願い。おかやくん。今日は……なんだかさみしいの」
「一花……」
「お願い……」
……気づけば俺は、一花の細い腰を抱き寄せて、唇を重ねていた。
また、楽な方へと流されてる自分がいた。この甘い沼から……俺は抜け出せないでいる。