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124話 虚無


 王子から結婚の話を聞いた俺。

 その日の夜、贄川にえかわ 一花から連絡があった。


『岡谷くん、仕事終わった? もし暇ならでいいんだけど、ちょっと飲みにいかない?』


 とのことだった。

 特に用事が無かったため、恋人(暫定)の誘いに乗ることにした。


 JRの駅前で待ち合わせをする。

 一花はいつものスーツ姿、ではなく、かわいらしい服装をしていた。


 黒いタイツにロングスカート、白いダウンジャケット。そしていつも結ってる髪の毛をストレートにしてる。


 改札を出ると直ぐに一花が近づいてきた。

 ヒールを履いてるからか、コツコツと足をならしながらである。


「すまん、待たせた」

「ううん! 今来たとこだから、気にしないで」


 ……そうは言うが、一花のハナの頭は赤くなっていた。今季節は12月だ。

 友達でもあり、今は暫定の恋人である一花を待たせてしまったことを、申し訳なく思った。


 俺は自分が巻いてるマフラーを、一花の首にまいてやる。待たせた、せめてものお詫びだった。


 一花は俺の行動にきょとんとしていた、嬉しそうに笑うと、顔を俺のマフラーに埋める。


「岡谷くんの……イイ匂いするな、な、なーんて。えへへ……年甲斐もなくごめんね」

「何言ってんだ。歳なんて関係ないだろ。俺たちに」

「そ、そうだよね……」


 少し乾いた笑みを浮かべる。

 年齢のところにひっかかりでも覚えたのだろうか。


「いこっか」

「そうだな」


 俺たちはJRの改札を出て、バスターミナルを横目に進んでいく。

 小さな大衆酒場へと入った。


 席に着く俺たち。

 一花は脱いだマフラーを、さりげなく自分のコートのハンガーに掛けていた。まあ……別に使いたいのなら使えば良いと思う。


 酒やつまみを注文してる間に、俺はあかりに、遅くなる連絡を入れておく。

 直ぐに返信が来た。


『一花ちゃんと飲みにいくの?』


 と。


「一花、あかりに飲みに行くことって言ったのか?」

「? いいえ」


 ……ならなんでわかったのだろうか。

 男には理解できない、なにかセンサー的なものが、女子には備わっているのだろうか。


「それより岡谷くん、聞いた? 白馬くんのこと」


 一花がずいっ、と身を乗り出して言う。

 ああ、王子のやつ、一花にも伝えてあるのか。そりゃそうだ。二人は大学時代からの友人の間柄だからな。


「ああ。結婚するんだってな。めでたいことだよ」


 心からそう思う。

 あいつはずっと苦労していた人間だからな。報われ、良かったって思う。


「そ、そっか……で、でっ?」


 ずいっ、と一花がさらに身を乗り出す。

「ど、どう思ったっ?」


 ……若干声がうわずる一花。なんだろうか?

 どう思ったも何も……。


「今までの努力が報われて、良かったなって思ったな」

「そ、そう……」


 しゅん……と一花が肩をすぼめる。なにか俺の発言に、期待でもしていたのか? それ通りじゃあなくて、がっかりした?


「どうした?」

「ううん……羨ましいなぁ、とか思わなかったのかなぁって……?」

「…………」


 羨ましい、か。

 どうなんだろうか。


「あ、ごめんね! 変な意味じゃあないし、別に岡谷くんを責めたいわけじゃあないから……」


 いそいそ、と一花が頼んだ酒が届いて、それを豪快にあおる。

 責めたい……?


「どういうこと?」

「あ、いや……別に深い意味はないから。ただ……」


 一花が小さく、消え入りそうな声で言う。


「……私はね、もちろん白馬くんが結婚して、幸せになって、良かったって思ったよ。でもね……同時にね、羨ましいなって思ったな」

「…………」


「あたしも、もう30になるし。周りは、同級生とか結婚して、子供とかいるひともいるからさ。……だから、白馬くんも【そっち側】行っちゃったって思ったら……なんだかさみしくなっちゃってね。取り残されたっていうか」


 ……そうか。

 一花はそう考えるのか。30。三十路。俺も、もう若くない。


 人生の進むべき道を決めてるやつが増えてきている。

 そんな中で俺は同じ場所で足踏みしている。取り残されている感。


 一花が言いたいことは、わかった。

 今感じてる、むなしさのようなものを、一花も覚えてるんだなって。

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よろしくお願いします!


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挿絵(By みてみん)

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[一言] >一花が言いたいことは、わかった。 >今感じてる、むなしさのようなものを、一花も覚えてるんだなって。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…
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