122話 沼
俺は着替えてリビングへ行く。ここはるしあのおじいさん、開田高原氏が用意してくれた(孫のために)、タワーマンション。
ここに俺は、あかり、菜々子、一花、るしあ、そしてみどり湖の六人で暮らしている。
「あ、お兄、おはよっ」
「……先生っ。おはようござます!」
義妹のみどり湖と、あかりの姉菜々子が、俺を笑顔で迎えてくれる。
……正直、俺はこのJKたちから、気持ち悪がられてないことに、若干戸惑いを覚えている。彼女らから見れば、俺は若い女複数を囲っている、やばい男だ。嫌悪感を覚えてもいいくらいだ。
でも、彼女らは俺に笑顔を向けてくれる。駄目だとわかっても、俺はその笑顔に安らぎを覚えてしまい、こんなおかしな状況から抜け出せないで居る。
俺の状況はさておき、あいさつされたので、俺はそれを帰す。
「おはよう。みどり湖は朝練か?」
制服をバッチリ着てるところから、そう想像して言う。
「うん。そう。菜々子は朝べん」
「そうか。毎朝偉いな、二人とも」
菜々子がはにかむ。彼女は夏休みに、北大のオープンキャンパスに行ってから、こうして毎朝学校の自習室へ行き、勉強してるのだという。
彼女の勤勉さには頭が下がるばかりだ。もとより頭のいい子だ。きっと志望大学には通れるだろう。
「せ、先生……あの、そのぉ……」
菜々子がチラチラと俺を見てくる。どうしたんだろうか?
「きょ、今日も……勉強頑張ります! だから……その……あのぉ……」
その姿に、俺は昔を思い出す。
まだ俺が塾講師をしてて、彼女らが教え子だったとき。
菜々子がテスト前に、必ず俺の元へ来て、同じような表情を見せていた。
多分、励ましてほしいんだろう。
「今日も勉強、がんばりなさい」
そう言って、俺は菜々子の頭をなでる。……若い娘にとって、こんなおっさんから触られることは、嫌悪感を覚えるだろう。
だが菜々子は嬉しそうに、本当に嬉しそうに笑ってくれる。……それが、俺にとって癒やしになっている。
「お兄……」
じとーっと、みどり湖が俺をにらんでくる。こっちのほうがわかりやすい。みどり湖とは付き合いが菜々子たちよりも長いかわらかる。
みどり湖もまた、催促しているのだ。
「頑張れ」
「ん♡」
二人は満面の笑みを浮かべて玄関へいき、出て行く。
視線を感じて振り返ると、あかりがうんうん、と腕を組んでうなずいていた。
「よきかな♡ おかりんがちゃくちゃくと、このハーレム状況から抜け出せなくなってますな♡」
「……そうだな」
あかりはどういうわけか、この異常な状況に俺がいることを、肯定してくるのだ。
自分も俺のことを好きだというのに。
どういう心理状態なのか、正直よくわからない。
あかりが俺になにを、男性として求めてくれてることはわかっていても。いや、わかっているからこそ、余計に、この状況を進めてくるあかりの意図がわからないでいる。でも……。
「おーかりんっ♡」
あかりが、俺を抱きしめてくる。
薄着ごしに伝わってくる、だいぶ成長した乳房の感触に、俺は否応なく……癒やされてしまっている。
「あんま難しいこと考えなくていいよ♡ ね……♡」
あかりが耳元でそうささやく。以前はからかうな、といってはねのけていたけども、それをはねかえす力が、徐々に弱くなっていった。
そう……俺は、この甘い、生ぬるい沼にいることに、居心地の良さを覚えてしまっているのだ。