表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
119/180

119話 才能



 北大にて、スーパードクターの飯田さんから、獣医になるための才能みたいな話を聞いた。

 コミュ力が大事だと、彼は言う。


 菜々子にとっては、一番足りていない力だ。


「…………」


 彼女がうつむき震えている。

 これは、いかんな。


「飯田さん、ありがとうございました。貴重なお話きけてうれしかったです」

「おうよ。って、JKちゃんどうしたの?」

「いえ、大丈夫です。お時間取らせてすみません」


 そうかい、といって飯田さんが俺たちの元を離れていく。

 うつむいてる菜々子の頭を、俺はずっとなでてあげた。


オープンキャンパス……こんな状態で受けさせられんな。


「菜々子。ちょっと外の空気吸いに行こうか」


 彼女は答えない。

 俺は彼女の手を引いて外に出る。


 菜々子は多分、才能が無いっていわれたと思ってへこんでるんだ。

 そりゃそうだ。


 俺だって、同じような思いをしたことがあるから、わかる。

 それを志す人間にとって、才能が無いって他人から指摘されることの、つらさを。


 ……だから。

 だからこそ、俺はわかるのだ。


 こういうときに、どんな言葉を投げかけてあげればいいかって。


ややあって、俺たちは建物の外へ移動し、近くのベンチに座った。

俺はハンカチを菜々子に渡す。


 ぐずぐずと泣いてる菜々子に言う。


「菜々子。そんなに気にすることはない」

「でも……せんせえ……わたし……才能無いって……」


 俺は菜々子の頭をなでながら言う。


「だからなんだ?」

「え……?」


 きょとんとする菜々子。

 俺は迷子になりかけてる彼女に、呼びかける。


「たしかに、どんな業界にも、必要とされる才能はあるよ。ラノベだったら、筆の速さとかな。けど……それがどうしたよ。才能がないから夢を諦めなきゃいけないって、誰が決めたんだ?」


 そうだ。

 才能が無くても、その業界で頑張ってる人はいる。


「でも……」

「才能が無くちゃその業界でやってけないなんて嘘だよ。俺は……見てきてるよ。いろんな作家を。だからこそ言えるよ。才能だけで書いてる作家さんは、一人もいないって」


 王子も、るしあも、俺の知ってる先生はみんなそうだ。

 みんな才能にプラスして、努力して、頑張って、小説を書いている。


デジマスのカミマツ先生は……まあ、あれは人間じゃ無いから例外だ。

でも今は例外は省く。


だってカミマツ先生しかいない。

才能だけで、あれだけヒットを飛ばしている先生は。


そんなの再現性ゼロだし、一般論から離れてしまうからな。


「ラノベ業界だけじゃないさ。みんな才能って呪いの言葉に苦しみながらも、歯を食いしばって、努力を重ねて活躍してる」

「…………」

「菜々子、ちょっと厳しいことを言うけどな」


 俺は、まっすぐに彼女の目を見て言う。


「才能って言葉を使って、努力することから逃げようとするな」


 努力することは辛い。

 正直しんどい。


 だって努力することで、勝利が約束されてるわけではないから。

 頑張っても100%報われるわけでもないから。


 でも、みんな諦めずに努力するんだ。

 自分のかなえたい、夢があるから。


 努力が報われないとわかっていながら、報われない努力を続けられたものだけが、栄光を手にすることができる。


 神の才能を持たない人間達は、みんなそうやって生きてる。

 だから……。


「努力したくないから才能って言葉を使ってるんだったら……最初から獣医になる資格は無い」

「…………」

「でも無理かもしれないけど、頑張りたい。なりたい。そう思うんだったら……俺は何度でも、おまえを応援するよ」


 俺もかつては大きな夢を持っていた。

 ラノベ作家になって、世界中の人に愛される作品を作るんだって。


 でもそれはできなかった。

 俺は……あきらめてしまったんだ。


 才能って言葉を使って、逃げてしまったんだ。

 ……だから。


 だから、未来ある若者には、頑張ってほしい。

 俺のように、ならないように。


「菜々子。俺はおまえを小さいときから知ってる。おまえは頑張り屋さんだ。おまえなら、できるよ。血のにじむような努力をかさねて、才能がないって言われたこと、覆せるって」


 お世辞でも何でも無い。

 俺には才能は無いかもしれないが、人を見る目には自信があるんだ。


 たくさんのラノベ作家を見てきたから。


「…………」


 菜々子が顔を上げる。

 その目には、覚悟の光がともっていた。


「やります。わたし……獣医、目指してみます」


 菜々子が俺の手を握ってくれる。

 ふわりと、やさしく。


「わたし、人と話すの、苦手です。でも……それを克服して見せます。ううん、克服します」

「菜々子……」

「わたしは、自分に自信がありません。でも、せんせいの言葉なら、信じられます!」


 ……俺の励ましの言葉を、聞いてくれたのか。

 俺を信じてくれてるのか。


 その信頼が……心地よかった。


「わたし覚悟が決まりました。才能がなくても、コミュ障でも、獣医になれるんだって、努力して覆してみます!」


 ……ああ、よかった。

 ちゃんと俺の言葉と、思いが、伝わってくれたようだ。


「おう。がんばれ」

「はい、頑張ります!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
おかりん、自分の吐いた言葉に責任もってな~ 過去の自分と重ねて言ったなら今度はおかりんの番じゃない?過去の失敗から学ぶべき、これからでも取り返すことはできるんじゃない。多くの作家さん見てるんだし?
[一言] か、カミマツ先生もフラれたら折れるくらいメンタルかけてるから…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ