118話 資格
俺たちは北大のオープンキャンパスにやってきた。
そこでスーパードクターで獣医の飯田哲郎さんと再会。
獣医学部の校舎まで、送り届けてもらった。
北大は学部ごとに棟が存在するらしい。
獣医学部の建物は結構古めかしく、伝統を感じられた。
「おれが学生の時もこんなんだったわー。かわんねー」
けらけらと笑いながら飯田さんが言う。
「飯田さん北大に何しに来たんですか?」
たしか忙しくて、なかなか日本に帰ってこれないっていっていたような。
「珍しい症例が大学病院にきてるっていうから、その患畜の診察」
医者としても獣医としても評価されてるんだから、すごい人だよなこの人。
「…………」
菜々子がもじもじしてる。何か質問したい事項があるんだろう。
「すみません、飯田さん。案内までしてもらって恐縮ですが、少し質問しても?」
「お? いいよ」
菜々子がぱぁ、と顔を輝かせる。
俺が目で促すと、彼女が言う。
「じゅ、獣医に向いてるひとって、ど、どんな人……でしょうか?」
「うーん……そうだなぁ」
やっぱり手先が器用なひとだろうか。
それとも、動物が好きな人?
「まあ、一番は、あれだな。コミュ力あるやつ」
「こ、こみょりょく……?」
「そ。人とうまくやる力。それがね、一番重要よね」
菜々子が固まってしまう。仕方ないだろう。菜々子は他人と話すのが苦手だから。
才能がない、って言われたような気がして、傷ついたんだろう。
「手先の器用さとか、動物の好き嫌いって関係ないんですか?」
「まあ全くないってわけじゃあないんだが、一番はコミュ力。次にコネ。3つめに親」
……どれも獣医とは縁遠いような気がする。
「動物のお医者さんなんだから、動物とうまくやればいいんじゃないんですか?」
「それはね、違う。全然違う。むしろ人間とうまくやらないと、獣医はつとまらんよ」
……いきなり何をいいだすんだ?
「たとえば病気を抱えて、病院にやってくるのは動物さ。でもお金を払うのは飼い主だろう?」
「まあ、そりゃ……」
「それに、動物が自分でどこがいたいー、って言わないでしょ? 動物のそばにいる飼い主から、その子の症状をうまく聞き取らなくちゃいけない」
そりゃそうだ。ここは現実だ。動物がどこがいたいなんて訴えてこないし、金を払うのは人間。
「飼い主とうまく話して、動物のどこが悪いのか聞き取る、飼い主のご機嫌を取って気持ちよく、高い診察料金を払ってもらう。臨床医に必要なのは、人間、つまり飼い主とうまくコミュニケーションをとる能力だよ。それがないやつで、臨床医やってるやつは、おれの知ってるなかじゃ一人もいないね」