115話 落ち着くあかり
北海道に来てる俺たち。
高原氏の用意してくれた部屋にて。
JK妹あかりが俺とやると口でいいつつも、緊張している様子だった。
こんな状態にしておくわけにはいかない。
「みんな、ちょっとあかりと二人きりにさせてくれないか?」
るしあをはじめとした、少女達が素直にうなずく。
姉の菜々子が何度も、ちらちらと妹の方を見つめてる。
緊張してる妹が心配なのか、駆け寄ろうとするその手を、義妹のみどり湖が止めた。
「お兄、あとよろ」
「ああ、わかってる。菜々子も」
俺の顔を見て、菜々子が表情を一転させる。信じてくれてるようでうれしい。
このホテルには部屋が結構あるため、みんなはそこへ移動。
俺はあかりと二人きりとなった。
「り、りう゛ぃ……リビングでやりたいなんてっ。おかりんってば、もー! ま、マニアックだなぁ!」
……今なお、虚勢を張ろうとしてるのか。
本当に昔と変わっていない。無理して、背伸びして、転んでしまうとこ。
そんな昔のあかりと同じ姿に、どこか俺はほっとしてるとこがあった。
再会したとき別人みたいにきれいになっていたこの子と、記憶の中の伊那あかりが繋がらなかったからだ。
でもこうしてる彼女は、俺の知ってる、可愛い教え子である。
「あかり。おいで」
「! あ、ぁ、え、と……」
「誰も見てないから。ほら」
「う、う……は、はい……」
強気から一点して、弱々しくうなずくと、あかりが俺に近づいてくる。
ソファに座るあかりを、ぎゅっ、と抱きしめる。
びくんっ! とあかりが強く体をこわばらせた。
「あ……あ、あ……う……」
「……大丈夫だから。あかり」
「え……?」
「何もしないよ。今日は」
俺はあかりの白く柔らかい手を取る。
……氷のように冷たかった。緊張してるんだ。ふりじゃなくて、本当に。
「なんで……? 魅力ないから……?」
消え入りそうなあかりの声。拒まれたと思われてるのだろう。そんな誤解はしてほしくない。
「そんなことない。おまえは綺麗だし、魅力的だ」
「じゃあ……なんで? どうしてえっちしないの?」
子供みたいに、拗ねたように尋ねてくる。
やっぱり昔のあかりっぽくて、それが安心できる。
「おまえが、大事だからだよ」
肉体的に成熟してても、あかりの心はまだ子供なのだ。
口ではえっちだなんだと強がってても、この子はまだ、男を受け入れる覚悟ができていない。
と、俺は思った。だから、まだしようと思わない。
「ってわけだ」
「…………ちげーし。あかりちゃん、百戦錬磨だし。男バリバリ食いまくってるんだから」
「おまえそれ、小学生の時も言ってたぞ」
かぁ~……とあかりの耳が真っ赤になる。
ほんと、可愛いとこあるんだよ。
「おまえのことは魅力的に思ってるよ。でもそれ以上におまえが大事なんだ。だから、こんな緊張してて、こわばってるおまえを押し倒すみたいなことはしたくない」
「うー……」
あかりが俺に抱きついてくる。ぎゅっ、とくっついてくる。
「……おかりん、アタシのこと子供扱いしてる?」
してほしくないのだろう。だが、まあ……そこは、な。嘘言ってもしょうがない。
今この場でこの子に感じているのは、あかりに対するエロスではない。
「ああ、子供扱いしてる。意外と防御力低いんだな、おまえ」
「う゛~……。あかりちゃんは、防御より攻撃にステ振りするんだよ~……」
「うん、知ってるよ」
ゲームでも、現実でも、この子はそういう子だ。
「無理しなくて良いだろ。ゆっくり進めてこう」
「でも……るしあと、一花に負けたし」
「勝ち負けなんてないだろ」
「負けだよっ。あー! もうもうっ!」
あかりがジタバタと足を動かす。俺はぎゅっとしてあげると、ふにゃっと笑った。
「……おかりん、このこと、秘密ね」
「このことって?」
「だ、だからっ。彼氏と旅行行ったのに、アタシがへたって、えっちできなかったーってやつ! 誰にも言っちゃだめだよ! そんな……ダサいこと、言っちゃだめ!」
そんなことを気にするあたり、まだまだほんと、子供だな。
「わかったよ」
「ほんとひみつだよ? 特に、バイト先の子には秘密」
「バイト先の……ああ、喫茶店の?」
あかりは駅前の喫茶店で働いているのだ。
あそこでお姉さんぶってるんだろうな。普段のこの子の言動を見てればわかる。
「はいはい」
「絶対ひみつね!」
「わかってるって。おまえは子供だなぁ」
「子供じゃねーし~……お姉さんだもんっ!」