112話 夏の夜の誓い
北海道に来ている俺たち。
るしあの祖父、高原氏の用意した部屋に泊まることになった。
絢爛豪華な食事を堪能した後……俺たちは部屋へと戻ってきた。
「食べ過ぎた……」
年を取ると、年々食べれる量が減ってくる。胃酸が弱くなっている影響だろう……。
PRRRR♪
「ん? 佐久平……?」
スマホにかかってきたのは、同僚である佐久平芽衣からの電話であった。
俺は……一旦ベランダに出てから通話ボタンを押す。
「どうした佐久平」
『あ、岡谷君。夏コミ大成功だったよ……!』
今日は夏コミ当日。
佐久平は上松さんと一緒に参加している。
俺はそれまで頑張ったので、ご褒美で休ませてもらっているのだ。
『同人誌、るしあ先生のめっちゃ評判良かった! あっという間になくなったよ!』
「そりゃ重畳」
俺の所属してる出版社、SR文庫。
ここは上松さんが立ち上げた新規レーベルだ。
それをみんなに知ってもらうため、同人誌を作って頒布することになったのだ。
俺の担当作家、開田るしあもまた、新しい作品を書いて提出してある。
そうか、受けが良いか。
当たり前だ。るしあがすごい頑張って作ったものなんだからな。
「先生にも伝えておくよ。お疲れさん」
『うん、岡谷君もお疲れ。そういや、今北海道だっけ? いいなー。お土産期待!』
「もちろん、白い恋人?」
『うん! あ、そうだ、1つ分多く買っといてくれない?』
「それはいいけど、どうしてだ?」
『お姉ちゃんがね、白い恋人好きなのよ』
お姉ちゃん……ああ。
「そういや、おまえ姉が居るんだっけか」
『うん。一緒に住んでるの』
「へえー……同居してるのか」
そういえば、佐久平の実家は長野だっていっていたな。
上京して姉と一緒に住んでるってことか。
「わかった、お姉さんの分も買っとくよ」
『さんっきゅー。じゃーねー♪』
通話が切れる。この浮かれっぷり、多分カミマツ先生の同人誌もすごい売り上げが良かったんだろう。
カミマツ先生は、現代日本最強のラノベ作家だ。
彼の新作ラノベもまた、今回の同人誌のなかに入ってる。
多分、彼のが一番だったんだろう。出版社的にはうれしいことだが、かなり悔しさが残る。
「いつかきっと……」
るしあ、そして俺の親友、王子。
彼らがいずれ神を凌駕する、そんなすごい作品を作れると確信してる。
そのために、精一杯頑張ろうと、そう思った。