110話 不在の一花
結局、全員が北海道に来た……いや。
「まて、一花は?」
恋人の一人、贄川 一花の姿が見えなかった。
全員がここに来てるのならわかるが、彼女だけいない理由がわからない。
あかりがスマホを取り出していう。
「一花ちゃんも誘ったんだけど、なんか仕事なんだって。たしか、夏コミ? の仕事」
「夏コミ……一花が?」
開田グループの警備部だったはずなのだが、なぜ一花が夏コミに参加しているのだろうか。
るしあにその旨を伝えると、答えが返ってくる。
「一花は母親の仕事の手伝いもしているのだ」
「へえ……母親。そういえばあったことないな。何をしてる人なんだ?」
「開田系列の会社の一つで社長をしている。たしか……ぶ、ぶいつーばー……? とかいう事務所をやってるそうだ」
ぶいつーばー……ああ、VTuberか。
二次元の絵を使って配信するスタイルのことだ。
俺も出版社に務めている関係で、知ってはいる。
たしか同僚の、佐久平の妹だかお姉さんだかも、VTuberやってると聞いたことがあったな。
ちょうど、そのとき俺の携帯に一花からラインがあった。
仕事が入ってここへこれないことへの謝罪と、すごい残念だとメッセージがおくられてきた。
俺は頑張ってくれとラインを送る。
するとご機嫌な【デジマス】の【リョウ】のスタンプが連打されてきた。
夏コミか。スタッフとして今確か上松さんと佐久平が行ってるはずだ(俺は当番じゃない)。
みんな大変そうだ。そんな中で一人のんきに旅行してることに、若干の申し訳なさを覚える。
だが、俺の仕事はもうやった。夏コミの仕事は彼らの分担である。
きちんと、休むことも仕事のうちだ。きりかえよう。
今度会ったときに、一花にはお土産わたして、母親のこととか聞こうかな。
「おかりん、いつまでぼーっとつったてるのさ! お部屋いこうよ!」
あかりが俺の腕をつかんで、笑顔でそういう。
ああ、そうだなとうなずいて、俺は彼女たちとその場を後にするのだった。