107話 そろそろ宿へ
俺は菜々子を連れて北海道へとやってきている。
ひとしきり札幌の街を見て回った後、ホテルへと向かって歩く。
「…………」
隣を歩く菜々子が終始もじもじしている。
かと思うと、俺をぼーっと見つめて……やはり顔をあかうしてうつむく。
「さっきからどうした?」
「うぇ!? あ、え、えっと……えっとえとぉ~……」
なんだかそわそわしっぱなしだ。
「そろそろ……ホテルで……あううぅ……」
「ああ? あー……」
なんとなくわかった。
照れてるのだろう。
同じ部屋で泊まることになってるからな。
今までの俺だったら、相手が子供であることを前提に振る舞ったろう。
すなわち、同じ部屋に泊まろうが、別に手を出さなかった。
それが大人の対応だからな。
けれど今は恋人同士。
どう接するのが正しいのか。
まあでも……俺の対応は同じだ。
「あんまり緊張するな。嫌だったら今からでも部屋を分けれるし」
「そんなことしませんっ! わ、わたしはその……せ、せんせーと一緒がいいんです! 思い出がほしいんですー!」
……なんというか、あれだな。
うれしいとか、そういうの以前にだな。
「菜々子。ここは人の往来だ。とりあえず声は小さくな」
「ふぇ!? あ、ああぅうう……」
菜々子が顔を赤くして縮こまってしまう。
俺が勘違いしないように強く否定してくれたのだろう。
俺は菜々子の肩を叩く。
「思いは伝わったからな」
「あ、あ、え、えへへ……♡ うれしいです……♡」
さてどうしたものか。
保護者として振る舞うべきか、彼氏として振る舞うべきか……。
るしあや一花と違って、保護者という立場もある以上、そこは悩みどころだよな。