102話 空港にて
岡谷が菜々子と仲良くデートしてる、一方その頃。
菜々子の妹あかりは、羽田空港にいた。
「ぐぬぬ……おかりんめぇ……お姉と見せつけてくるじゃないのよぉ……」
あかりはスマホを握りながらうなる。
隣にはワンピース姿のラノベ作家、開田るしあが座っている。
「嫉妬とはみっともないぞ、あかり」
「あんただってさっきから、貧乏ゆすりとまらないじゃないのよ」
「はは、何のことやら」
タンタンタン、とるしあが足をならしている。
相当いらだってるのが、表情からもうかがえた。
さて、二人がなぜ空港にいるか?
簡単だ。
菜々子と岡谷とのデートを、監視するためである。
岡谷たちがあまりに楽しそうに、二人きりでの旅行をしているものだから……。
あかり、そしてるしあの二人とも、辛抱たまらず、こうして札幌へと向かおうとしていたのでる。
「チケットみてきたよ」
「みどり湖」
岡谷の妹、岡谷みどり湖が近づいてくる。
「どうだった?」
「だめ。全滅。当日キャンセルもないって。ま、そらそうだわな」
なぜかみどり湖も連れてこられたのである。
ぐぬぬ……とあかりがうなる。
「そーよね、お盆のシーズンだし、飛行機なんて急にとれないわよね」
「そーそー。じゃ、帰ろ」
「いやよ、みどり湖。あんた気にならないの?」
「は? ま、まあ……気にはなるけど……」
みどり湖もまあ、岡谷を愛する、仮の彼女の一人なのだ。
「まあでも、飛行機はどうやったってもとれないし、おにぃが帰ってくるの待つしかないっしょ」
「…………」
るしあは意を決したように、スマホを取り出す。
「仕方ない。できれば、使いたくなかったのだが……」
ぽちぽち、とるしあがスマホを操作する。
すると……1分後。
「お待たせいたしました、流子お嬢様!!!!!」
見知らぬおじさんたち数名が、大慌てで近づいてきたのだ。
あかりが彼らを指さす。
「誰この人たち?」
「開田グループ、航空部門の社員だ」
「あんたんちって……空港会社まで持ってるの……?」
「ああ。【KAL】って知ってるか?」
「うん。大手じゃん。……って、ああ……【KAIDAエアライン】の略称なのね……」
KALの社員たちが、それはもうペコペコしながら、るしあたちを案内する。
飛行機に乗ろうと、行列に並ぶ人たちからは、奇異な目で見られてきた。
みどり湖が周りを気にしながらるしあに問いかける。
「……ちょ、なにしたのさあんた」
「お爺さまに、頼んだのだ。【じぃじ、飛行機乗りたいの】とな……くっ! 恥ずかしい……!」
るしあはあまり、開田の名前を使って権力を振りかざすのをよしとしない。
そして、祖父である開田高原に【じぃじ】とおねだりすることも、また。
孫馬鹿老人の高原は、可愛い可愛い孫からそんな風に頼まれたら、もう張り切ってしまって……。
ファーストクラスを3人分、無理矢理、用意させたのである。
「用意させたって……どうやったのよ」
「……元々乗る人いたんじゃない?」
るしあは答えなかった。
多分まあ、あまり行儀の良くない方法で席を手に入れたのだろう。
ファーストクラスに乗り込むも……。
「って! 誰も乗ってないじゃん!」
「お爺さま……3人分でいいって言ったのに……」
どうやら高原は、ファーストクラスを貸し切ったらしい。
この直前で、である。
「……あんたのじいさん、やばいね」
みどり湖がそうつぶやくと、二人ともうんうんとうなずくのだった。