100話 ラーメン美味しい
俺と菜々子は北海道へとやってきている。
宿で荷物を置いた後、一緒に昼飯を食べに出かけた。
ラーメン屋に入って待つことしばし、味噌ラーメンが運ばれてくる。
「すぅ……はぁ……いいにおいです♡」
「そうだな。ごま……かな。香ばしい香りするな」
「はいっ。あ、せんせー。おはしどうぞっ」
「ありがとう。じゃあ食べようか」
「はいっ。いただきますっ」
菜々子は長い前髪を左手でかきあげて、ふうふうと麺に息を吹きかける。
ちゅる……と控えめに彼女が麺をすする。あまり音を立てず、おちょぼ口で。
はふはふしながら咀嚼し、
「ん~♡ おいひーれすっ♡」
輝くような笑顔からは、嘘偽りを感じさせない。本当においしいのだろう。
この笑顔は妹のあかりを想起させた。やっぱり、似てなくとも、姉妹なんだな。
「せんせーもたべましょーよっ」
「ああ、そうだな」
麺を箸で持ち上げる。太くない縮れ麺だ。最近都会で家系っていう、鉛筆みたいな麺の入ったラーメンがはやってる……が。
俺はこっちの古典的な麺の方が好きだな。
スープに麺をくぐらせて、ずずっと一口。味噌まろやかな風味が口に広がる。
咀嚼すると縮れた麺にからまったスープが口の中全体に広がっていく。もちもちの食感に、味噌のコク。
かむたびに幸福が広がっていく。
「ひゅわわふぇれふ~……♡」
ちゅるんちゅるるんっ、と菜々子がテンポ良く麺をすすっていく。
食べるスピードは、さほど早くはない。だがテンポが全く崩れないのだ。
「はふはふ……ふーふー……ちゅるちゅ……はぁ……♡ しあわせですぅ~……♡」
……一定のテンポで食べて、その都度感想ととともに、とろけきった笑みを浮かべる。
まるで精巧な機械のような動き。それがただラーメンを食べるだけというギャップに、思わず俺はふきだしてしまった。
「なにかおかしかったのですか?」
「いや……かわいくてさ」
「か、かわ……むぅ。子供っぽいってことですか?」
むくれてしまう菜々子の頭をなでる。さらさらしてて、絹糸みたいな感触を味わいながら俺はなでる。
「そうだな。ガキっぽいな」
「いいんですっ。わたしまだ子供なので」
「あかりみたいに背伸びしないんだな」
「背伸びしたくても、わたし、養ってもらってる立場ですし」
切なそうな菜々子。申し訳なさとは違う。多分力のなさをきちんと受け止めているのだろう。
無知の知、とはよくいう。自分の知らないこと、できないことを認めていることは、すごいことだ。
「菜々子はいい女になるよ」
俺は菜々子を褒めてあげることにした。
さっきと違って、うれしそうにふにゃっと笑う。
うん、かわいい。