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10話 新居へ引っ越し



 妻ミサエと決別してから、10日くらい立ったある日。


 新しい会社から帰ってきて、俺は双子JKたちと夕飯を食べていた。


「明日、引っ越し業者が来る」


「「引っ越し……?」」


 はて、と二人が首をかしげる。


「あ、わかった。あのばか妻の荷物、運び出すんだね」


 ミサエは、俺との離婚に合意した。

 しかし今無一文らしく、家具などを寄越せと言ってきたのだ。


「それもある」


「……せんせえ、も、とは?」


「ミサエにやるものは持ってってもらって、それ以外は新居にもってく」


「「し、新居ぉ……!?」」


 あかりたちが目を剥いて叫ぶ。


「お、おかりん、新居って? 家買ったの……?」


「いや、借りたんだよ、家をな」


 俺はスープ(ビシソワーズという冷たいポタージュスープ)をおかわりする。


 あかりがいそいそとついで、戻ってきた。


「せんせえ、なんで……家を借りるんですか?」


「理由は……まあ色々だ」


 単純に三人で住むには、ここは手狭だから。


 という理由ももちろんある……が。


 大きな理由として、ここをミサエが知っているということだ。


 ミサエ、元妻とは縁が切れた……とはいえ。


 やつはここの住所を知っている。


 つまり、金をせびりに、ここに来る可能性だってある。


 俺がいれば、俺が撃退する。

 だが俺は日中働いている。それに双子は今夏休み(正確にはテスト休み中らしい)。


 俺が不在の間に、ミサエが来て、ふたりに危害が及んだら困るからな。


「アタシわかっちゃった。おかりんの気遣い」


 すぐ察したような顔になるのは、金髪ギャルの妹あかり。


「……気遣い?」


「つまりね、あのばか妻はここ知ってる訳じゃん? 強引に乗り込んでこられても困るっしょ?」


「……せんせえ。わたしたちのために……ありがとうございます」


 何度も何度も、姉の菜々子ななこは頭を下げる。


 俺はため息をついて、あかりの額をつつく。


「おまえは、察しが良すぎる」


「悪かった?」


「いや、昔から気遣いのできるのは、おまえの美徳だよ」


「にひー♡ でっしょー?」


「調子乗るな。本当に気遣いができるなら、気づいても口にしないのが淑女ってやつだ」


 ぷく、とあかりが頬を膨らませる。


「でもさー、それじゃおかりんの優しさがお姉に伝わらないじゃん?」


「優しさは表に出して主張するもんじゃないだろ」


 二人は顔を合わせると、静かに微笑む。


「……私、ここに来れて本当によかったです」


「アタシもー。毎日怯えなくて安心してグッスリ眠れる……あー……うん。今の無しで」


 いつのノー天気なあかりだが、時折その笑顔に陰りがさす。


 家族間でのトラブルがチラホラ感じられる。


 だが、無理して踏み込むことはしない。

 触れて欲しくない傷をわざわざ触れるなんてダメだ。


 それに……言いたくなったら、この子達なら、自分で言うだろうしな。


「私たちのこと、ちゃんと尊重してくださって、ありがとうございます……せんせえ」


 すっ、と菜々子ななこが綺麗にお辞儀する。


「お前らを預かる身として当然のことしてるだけだ。わざわざ感謝なんていらないぞ」


「ん~……んふふふふっ♡」


 あかりがふにゃふにゃと、蕩けた笑みを浮かべる。


「なんだ?」

「いやぁ……毎日しあわせだなー……と、実感してるあかりんなのでした」


 まあ何はともあれだ。


「業者が明日来るから荷物まとめておくこと。大きな家具は引っ越しが終わったあとに買いに行くぞ」


「あ、なるほど。買い物先延ばしにしてたのって、引っ越しが先になるからなんだ」


「……なるほどっ。さすがせんせえ、段取りがいいです!」


    ★


 会社の休みの日。


 午前中に、業者がやってきた。


 ミサエの私物は全部段ボールに詰めてまとめておいた。


 服や化粧品などである。


「アタシらも手伝いたかったよ。作業ぜーんぶおかりんがやっちゃうんだから」


 あかりが不満げに言う。


「あほ。これは俺の責任で片を付けるべきことだ」


「……少しは、背負わせていただけませんか?」


 菜々子が恐る恐る聞いてくる。


「ダメだ。こんな汚いもん、子供が背負うべきものじゃない。おまえらは気にせずのびのび生きれば良い」


 俺は菜々子の黒髪をくしゃりとなでる。


 彼女は唇を尖らせていた。

 言いたいことはわかるし、彼女の気遣いがわからないほど愚鈍ではない。


 だが関わらせて良い問題では決してないのだ、こんなもん。


 要らなくなった家具も含めて、あいつの家に送ってやった。


「おかりん、もったいないよー。あのベッドとか、すっごい高級家具じゃん」


「……せんせえに全額、高い家具を買わせておいて、よく自分のものと主張してきたものです」


「あつかましいよね、あのオバサン」


「いいんだよ。もう俺には、あんなデカいベッド必要ないからさ」


 業者にサインして、金を支払う。


 業者は頭を下げるとさっていった。


「さて、いくか新居に」


「おー! ……って、どこにあるの?」


「近くだ。つっても車で20分くらいだがな」


 俺は残っていた荷物を持ってマンションを降りる。


 ミサエに高い家具は全部譲って、家電は別の業者に頼んであるので、あとは自分の荷物だけだ。


 駐車場へと向かう。


「おかりんマイカーまで持ってるの!?」


 4人乗りの普通自動車だ。


「そこまで驚くことか?」


「いや……だって29歳、都心住まいでしょおかりん。マイカーなんてもってない……というか、必要ないでしょ」


「まあ電車があれば事足りるが……ミサエが買い物に使いたいって言ってたからな」


「……何が買い物に使いたい、ですか。せんせえにご飯を作ってこなかったくせに」


「きっと浮気相手とのデートに使ってたんだよ。あーあ腹立つぅ」


「もういい、昔のことだ。ほら、さっさと乗れ」


 俺は運転席に座る。


「アタシは後ろでいいから、お姉が助手席のりなよ!」


「ふぇ……!? ふぇえええ……! い、いいよぉ~……」


 かぁ……と菜々子が顔を赤くしてうつむく。


「何照れてるんだい? ん? お姉……? ん~?」


 によによと笑いながら、あかりが姉の頬をぐりぐりと指でつつく。


「だ、だって……せんせえと……並んでドライブだなんて……で、でーとみたいで……」


「わはっ。なんじゃそりゃー。ンモー、その程度で赤くなってちゃ、本番のときには照れすぎて倒れてますなぁこりゃ」


「うう……あ、あかりが乗れば良いじゃないっ」


「う゛……え゛あ、……いやぁ、アタシは……いいかなぁ~……って」


 あかりが顔を赤くして、そっぽを向いて言う。


 ひゅーひゅー、とふけもしないのに口笛を吹くマネをする。


「……あかりも、助手席乗るの恥ずかしいくせに」


「はぁ? 余裕ですけどぉ~?」


「……じゃあ乗りなさい。はりーあっぷ」


 ぎゅうぎゅう、と姉があかりを助手席に座らせようとする。


「ひっ……! やめてよぉ!」


「……2人とも後ろに乗れば良いだろうが」


「「あ、そっか」」


 ふたりが後ろの席に座る。


「シートベルト忘れずにな」


「助手席じゃないのに? あかりちゃんおっぱいでっかいから、シートベルトきっついんだよねぇ」


 あかりが両手で自分の乳房を掴み、わざと押しつぶして、胸を強調する。


 俺はそれを見て溜息をつく。


「苦しいのはわかる。だが今は後部座席もシートベルト着用なんだよ。それに急ブレーキ踏んで頭ぶつけたらどうすんだ? いいからさっさとつけろ」


「ふぇーい……色仕掛け効かないんだよなぁこの人……はぁ、あかりちゃんのおっぱいが泣いてるぜ。同級生の男子はガン見してくるのによぉ」


「……でも、だからこそ、落ち着くでしょ?」


「ん。そーだね。クラスメイト達、会うたびアタシたちの胸見て気持ち悪い目してくるからさ、いやなんだよね。ガキっぽいし」


 けど、とあかり。


「おかりんはこう、余裕があるって言うか、がっついてないから……最高に良いと思います!」


「あほか」


 俺は車を発進させ新居へ向かう。


「ほらほらおかりん、πスラッシュですぞ~? ほらほら、シートベルトでお姉のおっぱいがぱつんぱつんでぷるんぷるんだよーん」


「もうっ! あかり! 運転中に気を散らすようなことしないのー!」


「だいじょぶだって、おかりんほら、まったく後ろ見てないし」


「うう……それはそれで……悲しい……」


 ほどなくして新居に到着。


 車を、建物の隣の駐車スペースにとめる。


「ほえー! いーじゃーん! 2階建ての一戸建て! 都内に家借りるなんて、やっぱおかりんすっごいや!」


 あかりが借家を見上げて、はしゃぎながら言う。


「あ、あの……本当に、いいんですか? こんな……高そうなところ」


「あほ。なんでおまえが気にするんだ菜々子」


 俺は菜々子の頭をぐしゃぐしゃとなでる。


「ここは新しい出版社から近いし、古い割にリフォームしたばかりで住みやすい。俺の都合を考えて借りただけだ。お前達が気にしなくて良い」


「といいつつもぉ、アタシらの学校からもチャリで通える距離にあるんだなぁ、ここ」


「え? そ、そうなの?」


「そー、というかむしろ学校の方が近いんだよね。おかりんちゃーんと、アタシらに配慮して家借りてくれてるんだよ~」


 ……本当に、こいつはすぐ姉にばらすな。

「……ありがとうございます、せんせえ」


「アタシら電車嫌いだったんだよねー」


 見ていればわかる、あかりたちは男からしたら魅力的な体つきをしている。


 電車の中で下卑た男達に、性的な嫌がらせを受けるかもしれないからな。


 ここからなら学校へは、チャリでも歩きでも通える。


「ここまで面倒見てくださるなんて……」


「俺は保護者からお前達を預かっている身だからな。これくらいして当然だ」


「せんせえ……」


「んもー……おかりんってば、やっぱ最高なんだからさ!」


 あかりがガバッ、と俺の背中に抱きついてくる。


 背中に柔らかな感触と、確かな張りを覚える。


 俺はあかりの手をほどく。


「あかり、おまえもう小学生じゃないんだから、そのノリで俺に抱きつくな」


「いやでーす♡」


「そういうのはな、恋人ができてからそいつにしてやれ」


「じゃーおかりんでいーじゃん♡ 恋人かっこかりなんだから~」


 まったく、もう少し俺が異性だという認識を持ってもらいたいものだ。


 いつまでも感覚が小学生の時で止まってるんだから……やれやれ。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] この犯罪者、保護者に連絡すらせず未成年を勝手に住まわせて「保護者からお前達を預かっている身」とか思ってるの? 法的に誘拐以外の何物でもないし浮気よりよっぽどヤバいんだが…
[一言] 私巨乳に弱いです!AVで巨乳もの見てるといつの間にか笑いながら寝落ちします巨乳の生乳見てるとセサミストリートのクッキーモンスターの目を連想して萎えますよ?笑って 堪えて萎えますよ?なので家の…
[気になる点] ここまでで未成年者誘拐で主人公は犯罪者ですね。 本人の同意があろうとも、保護者の監護権を侵害してますから訴えられたら負けです。書籍化など希望されるなら保護者からの同意を取得する描写がな…
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