8# 顎の割れてない方のレオンハルト。
俺は今、捕らわれています。
はい、どういう事でしょう?
オフィーリアの姿で、ディアーナを助ける為にわざと捕らわれた事はあります。
ですが、神の御子である俺を気絶していたとは言え、容易に捕らえる事など普通の人間には出来ないハズなのです。
しかも、こんなハナタレ小僧どもに……。
「こいつ、何者だぁ!」
「見た事ない、アヤシイ奴だ!」
「お前、誰なんだよ!」
さびれた超ド田舎の小さな教会のような場所で、後ろ手に縛られたレオンハルトは目の前に居る10歳ほどの三人の少年達に詰め寄られ、考えのまとまらない頭で答える。
「俺?…俺はレオンハルト……」
名を答えた途端、少年達の顔が青ざめた。
「ギャー!レオンハルトだ!」
「皇帝だ!」
「暴君だ!バクスガハーツ帝国の暴君だ!」
青ざめた少年達がギャーギャー騒ぎ出す。
皇帝?暴君?何より国の名前!
「ばっ…バスガス爆発帝国!?」
何だ、その三回続けて言えたらスゲェみたいな名前!
いかん、少年達がパニクっている。下手したらお漏らしされそうな勢いだ…。
俺もつられてパニクってはいかん…。落ち着け俺。
なぜ、こんな事になっているのか…。
ちょっと、色々と思い出してみようか…。
そういえば、俺は草原でディアーナとイチャイチャしていたな。
もう、俺の妻は最高で…見た目はパーフェクト、香り良し、肌触り良し、抱き心地良し、声も最高で…いや、違う。
そんな事を思い出してる場合じゃない。
お漏らしされる前に思い出せ俺!
草原でイチャイチャしていた……抱き締めた…ら、キレた。
「ああ…時々起こる発作が…香月発作が…出たな…俺が、か弱いなんて言ったせいで…」
普段なら、か弱いなんて言った位で妻はキレたりはしない。
せいぜい、「やだわ、か弱いだなんて」と照れながら俺をグーパンで殴る程度だ。
それが香月パーセント高めになると、弱いという言葉に過剰に反応するようになる。
そして、ディアーナはそこそこ強い。
そこに香月が入ると、より一層遠慮が無くなる。
……俺は、愛妻の頭突きや足技で気絶させられたようだ…。
いや、でもな……気絶していたとは言え、たかが人間に捕らえられる程、弱くないハズなんだが…。
教会の奥の扉が開く。神父らしき男が近付いて来る。
「皆さん、あまり近寄ってはいけませんよ?変な病気を伝染されたら大変ですからね。」
教会の奥から出て来た男は黒い髪に黒い瞳の美しい青年…。
て、ゆーかもー神父の服を身に付けたジャンセンだった。
「おやっ……!」
親父と呼ぶ前に恐ろしい威圧を受ける。
睨み合う二人が、眼で会話を始める。
『呼んでみなさい、どうなるか分かっているんでしょうね?』
『どうなるんだよ、クソ親父』
『お前の金髪むしり取って、二度と生えなくしてやりますよ…ディアーナの前に出れなくしてやる』
「…………神父様…俺はただの旅人です……許してくれませんか?」
レオンハルトは、目で語り敗れた。
「そうですか何者でもない、ただのただの旅人だったのですね。この村に侵攻して来た国の皇帝と同じ名前なもんですから…」
ジャンセンは、さりげに情報をレオンハルトに語りつつ、レオンハルトの縄を解いていく。
それにしても俺への態度にトゲ有りすぎだろ。
「神父様!騙されちゃ駄目だよ!こいつ、絶対アヤシイよ!」
「そうだよ、ミーナとビスケ姉ちゃんを拐った奴らの親玉だ!」
少年達が縄を解く神父に食ってかかる。
「……私が……大丈夫だと判断したのです。何か文句でも?」
ジャンセン神父は、ニコニコと微笑んでいる。
微笑んでいるが、少年らに向け威圧を放つ。
少年達は涙目でカタカタ震えだした。
「うおお…子どもにも容赦ねぇ…」
さすが親父だ。自分の感情とペース、最優先。
「神父様…お漏らしされる前に許してやって下さい…片付けるの、俺になりそうなんで…」
レオンハルトは覚悟した。
親父の娯楽に付き合わされてしまう事を。
そもそも何で、こんなへんぴな村で神父なんかやってんだよ。
いつからだ?