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魔王さまのパーティーはアホと変人。

ライアンの放つ強い怒気に、オネェも慌てふためいている。


「な、な、何なの!?どうしちゃったのよ!!寒い!寒いわ!痛い!空気が痛いぃ!!ライアンちゃぁあん!!」


微笑みながら語り掛けてくるライアンはカミソリの様に鋭い冷気と殺気を放ちながら僕に近付いて来る。


「花嫁って…聞こえましたよ?誰が、誰の花嫁なんです?…僕がソイツのって言ってましたねぇ…ロージア様が…誰の?」


僕の真っ正面に立ったライアンが僕の頬に手を延ばそうとする。

表情は笑っているのに目は笑っていない。

それが強い嫉妬からだと誰の目にも明らかな程の分かりやすさ。

イラッとする。


「触るな。下僕。」


触れようとしたライアンの手を強く叩き落とす様に払った。

払われた手が宙に浮いたままのライアンを冷たく見下す様に睨め付ける。


「下僕の分際で、僕に意見する、訊ねる、触れようとする…お前は主人である僕をどれだけ軽んじている?」


表情を変えず冷たく見下す様に言った僕の内心は表情とは真逆で、腹が煮えくり返る程カッカと熱くなっていた。


まず、一瞬とは言え魔王である僕をも怯ませる程の怒気を放った事。

そして、そもそも僕はライアンの物では無いのに、僕を自分の物だと主張しているかのような態度。くだらない嫉妬。


ホント、何様だ!貴様!!


「お前は僕に意見出来るような立場に無い。お前が僕の言葉に対し疑問を持つ事なんて許してない。お前は常に、ハイだけ言ってればいい。ましてや、この僕に触れようなど…………」


ライアンの手を払った僕の手が掴まれる。

そのまま引き寄せられ「だ、抱き締められる!?」と身体を強張らせた僕の両肩を持ったライアンは僕と正面から向き合う格好で僕を見詰める。


「貴方が!俺を信用していないのは分かってます!ですが!俺が貴方を、どんな奴から守らなければならないか位は教えてくれてもいいでしょう!?これは!!貴方一人の戦いではない!神々の戦いなのでしょう!?」


抱き締められなくてホッとしたと同時に、ライアンの悲痛な叫びにも似た訴えに思わず目を逸らしてしまう。

ライアンが僕を好きだから嫉妬したとか、嫉妬されるからウザイとか……

好かれている強みから、自身が優位だと思い込んで奴をないがしろにした。


そうだ、これは僕一人の戦いではない…。

僕を含めた、この世界の神の一族が宣戦布告されたのだ。

ディアーナやレオンハルトも迎え撃つ準備をしている。

ライアンだって、その戦いの為に僕の剣として眷族になったのに…。


僕は何て幼い考えしか持てなかったのだろう。

独りよがりも甚だしい。

恥ずかし過ぎる上に、後ろめたい気持ちになる。


「す…まない………」


ライアンに肩を掴まれたまま、小さな声で謝る。

主の僕が従者に謝るなんて…ええ?と、正直な所、少しは思ってしまったのだが。


僕らのやり取りを避難するように離れて見ていたカミナリ様オネェが、くねくねと僕らの側に来た。

オネェなりにライアンを気の毒に思ってしまったのか、僕の代わりにライアンの疑問に答えようとした。


「…あたしを生んだ魔王様がね…チビ魔王様を花嫁にしたいと言ってんの。」


「…………はぁい?」


僕の肩を掴んだまま、ライアンが恐ろしい程の笑顔でオネェを見た。

再び刺す様な怒気が立ち昇る。


「ちょっ…!ライアン!!あのな!!嫉妬!?違うよな!!神々の戦いに、嫉妬なんて個人的な感情を持ち出すとか、無いよな!?」


焦り過ぎて、自分でも何を訴えているのだか分からない。

オネェも、キャァキャア汚い声で喚き散らしながら、逃げ出したいのにその場から動けなくなっており……


違う、オネェの手足は今、僕の触手だ。

その僕の触手が凍り付いた様に動きを止めている。


うん、本体の僕もライアンに抱き締められちゃって動けなくなってるからね。

僕、触れるなって言ったよね!!意見するなとも!!主を軽んじるなとも!!


それ、全部、まるっと無視されてんの!?


「魔王!?はぁ?魔王!?この世界の大魔王たるロージア様を差し置いて魔王!?しかもロージア様を嫁!?はぁ?ソイツ連れて来い!俺が微塵切りにしてやるから!!」


「あた、あた、あたしだって、魔王様の居場所なんて知らないわよぅ!どうしてチビ魔王様を花嫁だなんて呼ぶのかも!!」


ライアンは片腕を僕の脇にくぐらせた格好で僕を抱き締めたまま、オネェの頬の肉をつねるように掴む。

ライアンは最初、オネェの髪をむんずと掴もうとしたのだが、ヅラだったのでポロリと地面に落ちて終わった。


なので、掴む所の少ないオネェの頬の肉を摘まんでいる。



僕……魔王だよね?

この世界では、一応最恐、最悪の災厄をもたらす存在だよね?


何で僕は今、ライアンに抱き締められてぬいぐるみみたいに手足がブラブラしてるんだろう……僕は魔王?ぬいぐるみ?


逃げたい……もう、引きこもりたい……


「そう言えば、宿で皆で話してる時にディアーナ姉ちゃんが言ってたよな!?即抱かれるって!!ロージア様が!?はぁ?微塵切りじゃ収まらんわ!ソイツ、擦り潰してペースト状にして四角く拡げて天日干ししたるわ!!」


ミンチにしたソイツで、海苔でも作るつもりか?ライアン。キモいわ。


「そんな奴にロージア様が奪われる位なら…俺が…」


ライアンの言葉が終わらない内に、渾身の力を込めてライアンの顔面を殴る。触手で。

僕を抱き締めたままで、後ろに倒れるようにぶっ飛んだライアンの手から何とか逃れた僕は、大の字になって地面に仰向けに倒れたライアンを見下ろす。


「スティーヴンが殺しに来るからやめろ!……不死身になったお前はもう殺せないのだから、お前の代わりに両親が犠牲になるかも知れないんだぞ!!愚か者!!」


「ロージア様………」


鼻血を垂らしたライアンがムクリと身体を起こす。

不死身になったアホな甥っ子のせいで、僕の兄上と妹が犠牲になるかも知れない。


「……………ディアーナといい、ライアンといい……僕の回りにはアホばっか集まるんだな!!問題児ばっかじゃないか!!僕は引率の先生じゃないんだからね!!あんまり苦労させないでよね!!」


自分でも何を言ってんだかと思ったけど、考えれば考える程に泥沼にハマる。

何で魔王の僕が、回りに気を使わなきゃなんないんだよ!!

ああああ!!腹が立つ!!


「くそめんどくせぇなぁ!!オッサン!!お前もな!!」


身体の大半を削いだオネェに魔力を分けて与え、とりあえず仮りそめの身体を与える。

僕の一部である触手を貸している方が僕には負担。

だから魔力を注いで奴の身体を造らせた。

体格は元と同じようにヒョロリと細身のキモい男の身体を与え、だが頭はスキンヘッドだ。


「ちょっとぉ!ここまで戻してくれたのなら、髪の毛も元に戻してヨォ!」


「ああ!?ふざけんな!!ディアーナと同じ藍の髪を渡せるか!!真っ赤なアフロでもかぶってろ!!」


ディアーナが置いて行ったカミナリ様的なヅラを被せる。

片目は潰したままだったので、眼帯を与えた。


………中二病的な香りがする出で立ちになってしまった……。


「あらぁ、これはこれで……まぁ悪くないワネ!!」


身体のラインが分かるピッタリとした衣装に身を包み、ポーズを取るオネェなオッサン。


「ウフフ、改めて自己紹介するワ!あたしはアダムよ!これからヨロシクね!!」


……別に仲間にするつもりで身体を与えたワケじゃないんだけれど……

そんな事を考えている僕にライアンがボソッと囁く。


「あの……ロージア様、コイツ魔王とやらの居場所知らないって言ってましたし、案内役になりませんよ?消していいんじゃないですか?」


「それもそうだね。消してしまうか。めんどいし。」


「や、やめてよ!!せっかく仲良くなれたんじゃない!!三人で旅をしましょうよ!!あたし、もう悪さを出来る程の魔力もないし…!」


仲良くなったつもりは無い。だからライアンの言う通り殺してもいーやと思った僕の元にズイズイと迫って来たアダムが僕に耳打ちする。


「あたしが居なくなったらチビ魔王様、ライアンちゃんと二人っきりで旅をしなきゃならないのよ!?チビ魔王様の貞操が危険な目にあう確率が上がるわよ!?大丈夫なの!?」


「そっ!それは困る!!」「でしょう!?」


ニッコリ笑う、隻眼アフロのオネェなオッサン。

色々と濃ゆいアダムに言いくるめられた感はあるものの、もう暫く行動を共にする事とした。


「ロージア様?このオッサンを旅に同行させるんですか?なんで?」


「あたしね、こう見えてお料理得意なの!夜営の時は腕をふるうわよ!!」


「………まともな食事が出来るのなら、まぁいいんじゃないかなって思って……」


こうして僕の旅のパーティーメンバーは、見た目は美形の執事であるが中身は阿呆のライアンと、見た目は赤いアフロの変人だが中身はやはりオッサンのクセにオネェだという変人な魔物のアダムの二人となった。


なんって、くどいパーティーなんだ!!

こんなメンツで旅をすんの!?目立ちたくないのに!!

目茶苦茶目立つだろう!!!




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