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魔王様、怒りの矛先ドンブリオネェ。

ライアンの振る透明な剣が、光の残像の様な美しい軌跡を描く。

敵に囲まれるより速く、敵同士の隙間を縫うように走り、通り過ぎた後には敵が霧散する様に散って消えていた。


「ぼ、坊主…何て速さで…」


檻に入れられた男達が感嘆のため息と共にライアンの動きに魅入る。

相手からの攻撃を一切受ける事無く剣をパートナーにして舞踏するかの様に、ライアンは全ての牙コンニャクを斬り捨ててしまった。


「オッサン達もう、出て来ていいよ。俺、ちょっと村の中を見て来る。」


透明な檻を消して男達を解放したライアンは、すぐさま一人で村の中を見て回ると男達の所に戻った。


「残念だけど、この村に生きてる人間は一人も居ない。オッサン達は依頼主にそう報告すればいいよ。で、この村に魔物を呼び込んで、餌場にした奴は…俺の主が何とかするだろ。」


「坊主の主……あの可愛らしい坊っちゃんがか?」


ライアン達を納屋に隠した男が「まさか」と言う顔をする。

他の男達も、遠目ではあるが儚く少女の様に美しい少年を見ていた為に訝しげな表情をする。


「誰より美しく誰より強い御方だからな。」


ライアンは自身の事の様に自慢気に言った。



納屋の中、ロージアはワラの山の上に寝転んで欠伸をする。


「くぁ…ねむぅ……汚いオッサンの相手なんて、つまんない事させないで欲しいよね。」


「…っま、待って!待ってよ…!な、な、な…!何が起こったのよぉぉ!!」


藁の上に寝転んで猫の様に身体を丸めるロージアを高い位置から見下ろすオネェは、自身の身に起こった事が理解出来て無い。


「何が…?オネェさんに藍色の髪は似合わないから頭を切り落としたよ?今のオネェさんドンブリみたいに額半分から上が無いからね。それと、金色の目も片方潰したよ。それと、身体の半分以上削り取ったからね。」


残された片側の目で自分の姿を視認しようとするが、自身の視界に自分の身体を入れる事が出来ない。

手足はおろか身をよじる事も出来ないのだが、亀の様に首をすくめて自身の胸から下を見ようとする。


「オネェさん、首までしか残ってないよ?だから今のオネェさん、本当にドンブリみたいな形してんの。ドンブリ分かる?」


「あ、あ、あたしの身体が無いぃい!!」


ドンブリの様な形にまで身体を削られたオネェは、ワラの上に寝転ぶロージアの下から生え出た黒いイバラの様な触手で高い位置に掲げ上げられている。


「うん、抉り取ったからね。どうせ、たいした痛みは無いんでしょ?オネェさんに食べられた子達の苦痛より甘いよね。それよりさぁ…オネェさんには僕達の旅に同行して貰おうかと思って、消さなかったんだよね。」


「あ、あ、あんた!あんた何者よぉ!!あ、あたしに…魔王様が直に生んで下さったあたしに…!こ、こんな!!こんな事出来る人間なんて、居ないわよぅ!!」


「魔王様?ナニふざけた事言ってんだよ、オッサン。お前の言う、魔王とやらは自称だよ。偽物だ。この世に魔王は僕一人しか居ないのだから。……だから僕は、ソイツを殺しに行くのさ。」


ワラの上にユラリと立ったロージアは、澄んだ青色の瞳を紅く染まらせ、高い位置に掲げたドンブリオネェを見上げる。


「夜空を纏う藍色の髪に、月を彷彿させる金の瞳は女神ディアーナだけのものだ。お前らの言う汚い魔王なんかが持っていて良いもんじゃない。ましてや、そのエセ魔王が生み出した小汚ないお前らが、それらを持つなんて……怒りや殺意を通り越して感情が凪いじゃうよね……。」


「ま、魔王!?魔王…!前の魔王があんた……」


「前の?オッサン頭悪いな。あ、脳ミソ削り取ったから頭空っぽか?さっきも言ったけど、この世に魔王は僕一人なんだよ。」


高い位置に浮かぶドンブリオネェの眼前まで間を詰めたロージアは、紅く染まった瞳で男を睨め付ける。

男は片側だけ残った金色の瞳に、ロージアの顔を焼き付けさせられた。


「ま、魔王様の……あんたが魔王様の花嫁…!」


ピキッ


ロージアに怯えながら口にされたドンブリオネェの言葉に、ロージアのこめかみに青筋が立った。


「……お前らの魔王とやらは、僕の事を……そんな風に言ってんのか?花嫁?この僕を花嫁だと?……へぇー……」





納屋の扉が開き、中からロージアが出て来た。


村の中央、一番大きなあばら家の前に居るライアンや村人を装っていた男達が一斉にロージアの方を見る。


「ロージア様!」

「寄るな!馬鹿!」


ロージアの姿を見るなり、ライアンが抱き付く勢いで駆けて来たので、ロージアは伸ばした触手でライアンの身体をベシッとどついた。


「……坊主……それは……何だ……。」


ロージアは多くの黒い触手を足元から生やし、それらの触手にはイバラの様にトゲが多く付いている。

それらの触手はそれぞれが意思を持つかの様にうねり、動き、ロージアの身を守る様に囲う。


人ならざる者だと、一目で分かるロージアの姿に、男達が恐怖感をあらわにした。


「……ライアン。」


ロージアはライアンに、従者のお前が説明しろと促す。

ライアンは頷いた後に、男達に向け声を上げた。


「この方は…俺の主。この世を統べる神々の一人、魔王ロージア様にあらせられる。」


「ま、魔王だと!?では、この村を滅ぼしたのはお前か!!なんて、ヒデェ事をしやがったんだ!!」


男の一人が恐怖感に抗い切れなかったのか、大きな声を上げロージアに向け剣を構えた。

その剣を持つ手を押さえ、構えた剣を下げさせたのはロージア達を納屋に案内した男だった。


「よさないか。神の一端である魔王様が、こんな辺鄙な村を滅ぼしてどうする。この村を襲ったのは……そこに浮かんでいるソレなんでしょう?」


男はロージアの後方の高い位置に、触手によって持ち上げられている顔と首までしか無くなった物を目で指し示した。


「………うん、そう。」


ロージアは男の問いに、幼い子供の様に頷いた。

魔王という存在は

恐怖され、疎まれる存在だと理解しているロージアは多くの言葉を語りたくない。


「……魔王様は、ソレをどうするつもりなんですか?いらないのなら、我々に渡して頂きたい。こちらで処分致します。」


「……僕以外に、魔王と名乗る奴が居る…そいつを探して殺す為に必要…。だから渡せない。」


男と目を合わせず、注意されて拗ねた子供の様に斜め下方へ目を向けて答えるロージアに、男が、ふうっと大きな息を吐いた。


「ならば、ソレはあなたに任せましょう。我々は報告を兼ねて依頼を受けた町に帰りますが………あなたは……ソレが多くの人を殺した事については、何とも思ってないのですよね…?」


「うん。僕も多くの人を殺したからね。人間らしい良心なんて期待しないでよ。」


男が苦笑しながら頷き、ぞろぞろと村の外に出て行った。

やがて馬のいななきと、ひづめが地を蹴る音が聞こえた。


「村がひとつ…無くなりましたが…これは、村ひとつで済んで良かったと言うべきなのですかね…。」


ライアンが、複雑な顔をしてロージアの方を見る。


「お前は、もともと人間なんだから…そんな言い方すんなよ。人が死んで悲しい、辛いは、人数関係無いだろ?村ひとつで済んで良かったなんて…人間のお前が言うな。」


ロージアは、高く掲げたドンブリオネェを見る。

こいつは村を襲い、村人全ての命を奪った。

それを酷い事をした奴だなんて責める事は出来ない。


自分だって、かつての大国に住む人間をたくさん殺した。

それを、悪い事をしたなんて思いもしない。


だって自分は人ではない。


「お前は…不老不死になったとしても、人のままで居ろ。」


「……はい。ロージア様…。」


ライアンに背を向けて歩くロージアの背中を、頬を染めて見詰めるライアン。


ライアンは、子どもがデパートでもらった風船の様に、ロージアが宙に浮かせて連れている顔だけの変なのと目が合ってしまった。


「あらやだ、いい男じゃないの!アナタ、この子に恋してるワネ!」


「…………ロージア様……ナニ連れてんですか………」





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