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魔王さま、藍の髪に金の瞳のオネェに遭遇。

むせかえる程の血のにおいがこもる、あばら家の中には場所を取らず、主によって案内されたのは裏に在る小さな納屋だった。


「屋根があり、雨風はしのげる。そこでいいだろう。」


「ええ、構いません。ありがとうございます。」


案内された納屋に僕達が入ると、外側から鍵を閉められた。


「ご主人!?開けて下さい!なぜ鍵を…!」


ライアンが、必死っぽい声を出しながら、中から片手で必死っぽく扉を叩く。

僕は、その芝居を見ながら欠伸をして、納屋の隅に積まれたワラの山に身体を横たえた。


「朝になれば開けてやる。夜に村をうろつかれては困るんだ。」


鍵を掛けた男が去って行く。

納屋の外から人の気配が無くなると、ライアンが僕の方を向いた。


「だ、そうですよ?」「ふーん。そう。」


僕は興味無さげにワラの上で欠伸をしながら、うつらうつらとし出す。


「猫みたいですね…ロージア様…可愛い」


眠り掛けていた目が一気に覚める。

ライアンがワラの上で寝転ぶ僕の頭の横に手を置き、真上から見下ろすように僕の顔を覗き込んでいた。

奴の一つに括られた長い金髪が、馬の尾の様に僕の顔に乗る。


「キモイ!やめろ!どんだけ顔を近付けてんだ!!」


思わずグーで顔を殴る。

ムカつく事にライアンは、紙一重で僕の拳をかわしやがった。

ライアンは、左頬を僅かに掠めた僕の腕にそっと手を添え、僕の拳に口付ける。キモさが半端ない。


「そんな事をしている暇があったら、この村が何なのか探って来いよ!」


「……そうですねぇ……」


残念そうに僕の上からどいたライアンは、一瞬で姿を消した。

転移魔法なんて、実際はそんな簡単に覚えられるもんじゃない。

しかも、ライアンは一度見た場所ならば遥か遠い場所でも壁一枚隔てた向こう側でも簡単に行き来出来る。

そんな嫌な力を持つ。

アイツは阿呆な分、魔法に関してだけは天才だ。

まあ普通の人間じゃないしな。うん。


一人きりになったので、やっと落ち着いて寝られると横たわった僕の前に、これまた転移魔法で現れたヤツが居た。


藍色の髪に金の瞳の…………誰だよ、コイツ。


「まだ可愛らしいのが残ってるじゃない!こんな所に隠していたのね!?」


藍色の髪に金の瞳のコイツは…何だかヒョロい……ヒョロくてキモイ。


そしてオネェだ。


小指を立てて唇の端に当ててる仕草が超キモイ。

でもまぁ、その姿でもって転移魔法で現れるなんて、多分普通の人間じゃないから…一応、ライアンの作った設定通りに良い所の坊っちゃんを演じる事にした。


「ええっと……お兄さんは……どなたでしょう…?」


少しばかりおどおどと、怯えたように芝居をする。


「オネェさんはね、この村の可愛い子を食べに来たのよぉ!食べ残しが無いか見に来たの!見に来て良かったわ!」


「僕が食べ残し?……前に食べた可愛い子はどうなりました?まだ…生きてます?」


生きてても死んでても僕には関係無いのだけれど…思わず聞いてしまった。

もし生きていれば…なんて考えが一瞬頭をよぎる。

それは


魔王の僕らしくない考えだ。


「んーん、もう消化しちゃったわ!お陰でワタシ、この姿を手に入れられたのよぉ!魔王様と同じ、藍色の髪に金の瞳!この美しい姿を!」


「……へー……」


薄く唇が弧を描く。腹立たしいを通り越して無感情になる。

藍色の髪に金の瞳。その姿は魔王のモノではない。

月の女神ただ一人に許された物だ。


僕はかつて、藍色の髪に金の瞳の聖女を造ろうとした。

多くの少女を犠牲にしても全て失敗に終わり、この世の創造主が月の女神にだけ与えたその姿を造り出す事は出来なかった。


それを…何でこんな、小汚ねぇオネェが手にしちゃってんだよ。

ヅラにカラコンじゃないよな?

こちらの世界には無いもんな?ヅラはともかく、カラコンなんて。


「若くてね、キレイで可愛い子はね、美しさの素になるのよ。だからワタシ、この村を好きにしていいって言われた時にね、子供ばかり全部食べちゃったのォ!」


「……あー……オネェさんは、元々が人ではないんですね。人の身体を器にしているワケでもなく…。」


教皇と同じで瘴気が集まって魔物になり、そのまま瘴気を増やして人の形になった物。


ウィリアの母親は、その遺体を魔物に乗っ取られたと聞いたけど…。


「あら、魔物に少し詳しいのかしら?魔王様が纏う瘴気から生まれたワタシ達は、人の身体を器にしなくてもこの姿になれるわ。たくさんたくさん食べたらねぇ、その血肉と魂と、僅かに持つ魔力を蓄えてね!!」


ディアーナと同じ、藍色の髪に金の瞳のオネェはキモイ。

夢の中に出たオネェは、もう少しマトモ…と言うか、本当にディアーナを男性化させたように美しかった。

存在は充分キモイんだけれど。


「この村で一番大きな家…あれが、オネェさんの口なんですね。」


「あら、よく分かったわねぇ!そうなのよ!あそこに子供達を集めてね、下からパクリとねぇ!!この村の次は隣の町、その次は……そうね、前の魔王とやらが潰した土地に出来たショボい国があったわね!」


前の魔王とやら…?前の?僕の事を言ってんの?

ショボい国……レオンハルト兄上と妹のリリーが作ったディアナンネの事を言ってんの?


「そこの子供達を食べたいわぁ!」


「下品な食い方しか出来ねぇオッサンが、ナニ言ってやがるんだよ。プチってやろーか?」


僕の口が悪いのは、誰かさんのせいだ。

この世にただ一人、藍の髪と金の瞳を持つ……僕の愛する人。




ライアンは納屋から出て村の中をうろうろ歩く。

姿を隠す事も無く村の中を歩くライアンに、あばら家の主が駆け寄ってライアンの胸ぐらを掴んだ。


「おっ!お前!どうやって納屋から抜け出た!!」


「え?なんとなく気分で。」


ライアンはヘラっと笑って答えにならない返事をする。


「お前みたいな弱々しいヤツが居たら邪魔なんだ!!隠れてろ!!」


「うん俺もね、あんたらみたいな弱いヤツらが居たら邪魔。」


ライアンは自分を囲むように方々にある、あばら家の陰に隠れた男達の背後に順に現れ、一人ずつ転移魔法によりあばら家の主人の前に集めた。


一瞬で集められた男達は、何が起こったか分からず、自身の身体や辺りを、互いの顔を見合う。


「オッサン達、この村の住人じゃないね?どこかの兵士さんか何か?」


互いに顔を見合わせていた男達が、ライアン達を納屋に閉じ込めた主人を見る。

恐らく、この男が男達の一番上の者なのだろう。


「俺達は元々は傭兵だが…この辺りの行方不明事件や、誘拐事件を調査している。ここ数週間、この村との定期連絡が取れないと調査の依頼を受けた。……あのあばら家の様子を見て、俺達は生き残りの村人の振りをしていた…。」


「て事は…オッサン達が来た時は、村人は誰一人生きてなかった?」


「村のあちこちに、人の身体の食べ残しがあった…。大人ばかりな…。これは誘拐ではない。魔物か、魔獣に襲われた痕だ。」


ライアンは一人納得したように頷き、集めた男達を透明な檻にまとめて閉じ込めた。


「坊主!何をする!我々を出せ!」


「ダメー、弱いから邪魔だってば。魔獣ならともかく、魔物を倒すの無理だろ?オッサン達、魔法使える?とどめは魔法で散らさなきゃならないんだから。そこに居れば安全だからね。」


村を囲む様に現れる、ツルリヌルリとした、人型の黒いアヤカシ達。ざっと20体程。


「このタイプの魔物は初めて見たな…ディアーナ姉ちゃんに食わされた、オデンのコンニャクとかいうヤツで出来てるみたい。ご丁寧に牙がたくさん生えてるけど。」


「こっ、こんなにたくさん魔物が…!坊主!一人でなんて絶対に無理だ!!」


ライアンは何も無い場所から、剣を取り出した。

水晶で出来た様に刀身が透明の美麗なる剣。

ロージアがディアナンネ国に贈った、魔王である自分を倒す為の剣。


「ロージア様の眷属になってから初めてのダンスだな。さあ、踊ろう相棒!」


ライアンは牙の生えたコンニャクの群れに突っ込んで行った。



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