魔王と永遠を共にする、ウザイ上にキモイ従者。
今後の方針も一応は決まったし、ライアンも無事に眷属になったという事で、一回解散、それぞれの持ち場に戻ろうとなった。
「ロージアは、そのメスゴリラ似のたわけ者から何かイチャモンつけられたら私に連絡ヨロです。」
「……ディアーナに似た、自称魔王の男だね……分かったよ。」
ジャンセンの言い回しを聞いていたディアーナが「師匠?」と言いながら笑顔で拳を握っている。
いくらディアーナでも、ジャンセンにだけは敵わないからやめといたら?と、思うけれども口には出さない。
とばっちりを受けるのはゴメンだから。
涼しい顔をしたジャンセンと、笑顔でジャンセンに殴りかかろうとしているディアーナ、それを必死になって止めるオフィーリアの三人は、僕の部屋から転移魔法により一瞬で居なくなった。
「……ロージア様……」
「……何だよ。」
「あなたと…初めて逢った日から、ずっと…この日を夢見て来ました。」
「…僕と結婚するとか言ってたじゃないか。してないけど?」
ライアンは目を閉じて静かに首を振った。
「幼かったのでそのような言い方をしましたが、あなたに俺の人生を、命を捧げ、あなたと共に生きていく。それが俺の望みでした。」
「…あー…眷属になったからな。ある意味結婚より厄介だよ。」
はぁ!と大きく溜め息をついてからライアンの方を見る。
……何て顔をして僕を見ているんだろうな。
幸せを噛み締める、笑顔と泣き顔。
その表情は普段のライアンよりもずっと幼く見えて、僕は初めて逢った日の、10歳の子供だったライアンを思い出す。
幼い日のライアン……………
思い出したら、思わずビンタしてしまった。
「???ロージア……様?」
いきなりビンタをされて困惑気味のライアンに、ニッコリ微笑む。
「ガキの頃のお前を思い出したらムカついた!」
「…ガキの頃の俺を覚えて居て下さるんですね……」
はたかれた頬を撫でながら、うっとりと僕を見るライアンに寒気がする。
駄目だ、コイツは病気だ。
もう、いっそ死んでくれ。キモイから。
あ、僕の眷属になったから死なないわ、コイツ。
「………っと、とにかく!部屋に戻れ!明日の朝には出立するんだからな!」
「はい、戻ります……ロージア様、もし…夢に誰か現れたら……俺の名前を呼んで下さい。すぐに駆け付けます。」
僕は返事をしなかった。
そんなのは、主を守る者ならば当たり前だろうという気持ちと
また、激昂したライアンにキスされたりしないだろうなという恐怖。
そして、誰よりも強くなりたいと願う僕が、危険にさらされる度にライアンを呼ぶなんて……
何だか気に食わない。
「とにかく、寝よう。」
ライアンが出て行くと、僕はすぐベッドに入りそのまま深い眠りについた。
何事も無く朝を迎えたので、そのまま宿を出る。
僕らの旅に、目的地は無い。
本来ならば、僕を魔王にしない為の……この世界に対し悪意を持つ者を見つけ、排除する……のだが。
「ライアン、僕を生み出した……って言い方はどうかと思うけど、兄上…お前の父親みたいな、暴君と呼ばれるヤツが居たらさ、排除するのか?」
宿を出る時に、痩せたロバを1頭買った。
僕はロバの背に跨がりながら、ロバを曳くライアンに訊ねる。
「殺します。…言いたい事は分かります。今の父上のように、改心するかもと言うのでしょう?……恐らく…ですが、俺が殺したい人間と父上は違うと…思うんですよね。」
人を殺す事に躊躇していた幼い子供が、たった五年で簡単に人の命を刈り取るようになった。
そこにはライアンなりの線引きがある。
「ライアンが殺したい人間て…瘴気を纏っているのが見えるんだっけ?器用なスキルを身に付けたよな…。」
スキル?と不思議そうな顔をするライアンが、話を続ける。
「纏うどころか、ひどいヤツになると口から吐き出してますよ。そこまでいくと、もう手遅れです。人間捨ててます。
……父上は、いや、その前の代から、バクスガハーツ帝国は国土を拡げる為に多くの人を殺して、たくさんの血を流しました。その人達の苦しみ、悲しみ、無念さが大きな瘴気となり国を覆った。と、習いました。」
その余りに巨大な瘴気が魔を生み出し、僕が生まれた……。
あの国と、そこに住まう人々を滅ぼす為に……。
「ですが、父上の思いは余りに純粋で、良くも悪くも邪気が無い。瘴気が一切無い。」
「そうだね、兄上は昔っから単純馬鹿だからね。さっさと殺しておけば良かったよ。そしたら、お前みたいな単純馬鹿な眷属が生まれる事も無かった。」
ロージアは暗に、自分がライアンの父親を殺すつもりだった事を告げる。
黙っているよりは、憎まれようが嫌われようが、言ってしまった方がスッキリすると。
「母上も殺すつもりだったのでしょう?聞いてますよ。」
ライアンは微笑みながらロバ上のロージアを見る。
「……自分の両親を殺そうとした者を守ると言うのか?頭おかしいんじゃない?」
見上げるライアンと目が合う。
ライアン的には、見詰め合うといった感じに思っているかも知れない。
僕的には、ガン見されてる僕が蔑んだ視線を投げ掛けている。
キモイ。
「守ります。あなたが…俺の全てだから…あなたの愛が欲しいなんて、おこがましい事は言いません。ですが、俺はあなたを愛してます。世界中の人間を殺してでも、この気持ちだけは貫きます。」
超キモイ。
「そうか……ガキの頃みたいに、結婚出来ないのが、なんで?と聞いてこないだけマシかな。」
ロバの背に揺られ、荒野を行く事半日余り、少しずつ草木が生えた状態の土地に出た。
ディアーナ達は、自然発生したりした瘴気の在る場所を探して浄化をする為の旅をしている。
瘴気のある場所には、その影響を受けた魔獣や、まだ力の弱い魔物、瘴気に惹かれた心暗い人間が集まる。
それを嬉々として倒すディアーナ。
その間にレオンハルトが瘴気を浄化する。
僕達は、その瘴気を生み出しそうな人間を探して倒す旅をする。
僕達には瘴気が発生していても浄化は出来ないので、そこはディアーナ達を呼ぶしかないのだけれど。
やがて、小さな村に辿り着いた。
宿も無く、小さなあばら家みたいな家が点在するような寒村だ。
僕達の姿はかなり目立つ。
良い所の坊っちゃんと、従者。
まんま、そう見える様だ。
少しボロい格好をして兄弟だと思わせる事も出来るし……
僕が女装する事も出来なくはない。
ディアーナが居たら「今が男装じゃないの」とか、身も蓋もない事を言われそうだが。
「私は従者のライアンと申します。私の仕える貴族家のご子息様ロイス様を休ませて差し上げたいのです。どうか一晩、場所をお借り出来ませんか?」
ライアンは村にあるあばら家で、一番広そうなあばら家に交渉しに行った。
貴族家のご子息様と従者、そんな設定にしたようだ。
「……入れ。」
あばら家の扉が開かれる。
中からガタイの良い中年の男が現れ、親指で部屋の中を指す。
「ありがとうございます。助かります。」
にこやかに笑んで、ライアンがロバから下ろした僕を抱き上げた。僕を抱き上げたライアンが弱々しく少しよろける。
「……っ!!」
急に抱き上げられ、文句を言いたかったが我慢した。
ライアンの意図が分かったから。
僕は弱々しい貴族の少年、ライアンは頼りない痩せた年若い従者。
この家には、むせ返る程の血のにおいがする。
「野盗か魔王信者か、また別の物か…どれですかね…ロージア様。」
「……あのオヤジに瘴気があるか無いか見てないのか?」
「ロージア様と楽しみたいので、見えないようにしてます。」
呆れた……。
まぁ、好きにしたらいいよ。
でも、結果が分かるまでは僕もライアンに乗るか。
「ご主人、ありがとうございます…僕達を休ませてくれて…。」
「…気にせんでいい……。」
無愛想なオヤジ。血のにおいがむせ返る、こんなあばら家で一人暮らし?おかしいだろ。




