魔王に眷属を。
「その、私に似ているらしい美形の魔王なんだけど」
ディアーナに似ているとは言ったが、美形とは言ってない…。
自分に似ている、イコール美形と言ってしまう、このふてぶてしさ…。さすがはディアーナ。
「ついつい、襲い掛かって来た信者らしき奴らをしばき倒してしまうのだけど…そいつの情報を得る為には、一度捕まってみるのも良いかも知れないわね。」
「あー…かつてディアーナがバクスガハーツ帝国の僕の兄上の城に来た時みたいな……生け贄として捕まった後に国を滅ぼしたからね…ディアーナが。」
「私とロージアがな。」
でも…そいつの崇拝者に捕まった所で、そいつの所に行き着くとは限らない。
だったら、本人と御対面した事のある僕が…そいつの情報を探るしか無いのか……。
「そいつは……僕が探る……よ……多分また……」
多分また、そいつは僕に何らかの接触をしてくる。
出来れば逢いたく無い…。
「それは助かるけど、そんな怯えてる状態では簡単に組み敷かれるわよ。そいつに。簡単にマウント取られて…どんな事されるか想像つくの?」
ビクンと身体が揺れる。
僕…何をされたのだろう…。記憶に無いのに、首筋に赤い痕を残されていた。
その先に……。
冷や汗が落ちる。動悸が激しくなる。
怖い…怖い!!
あいつは、僕を女扱いして花嫁と言った!!
じゃあ、その先に続く行為は……?
「馬鹿ね…一人で無理して頑張ろうとして…。」
「たかが夢の話だよ!どんな事されたって現実じゃないのだから!平気さ!!」
「抱かれても?」
ハッキリと口に出された行為に、恐怖する。
一人で夢の中で、奴に立ち向かわなければならない。
勝てる自信が……無い。
負ければ……抱かれる……?
「今、私達は喧嘩売られてるの。ロージアが、と言うよりはジャンセン含む、神の一族が。まだ敵さんの正体や目的が分からないんだけど…ロージアを目的の一つとしているのならば…それは許せないわね。」
ディアーナが震える僕を抱き締めてくれた。
大好きな、大好きなディアーナ……。
ディアーナは僕を妹だと言う。
だから、こうやって抱き締めてくれる。
僕は…誰からも…男としては見られてないのだね。
そして、敵にはハッキリと女として見られている。
悲しくて…そして、何より腹が立つ…。
「ロージア、ライアンをあなたの眷属にしなさい。…人間ではなくなるけど、彼はそれを望んであなたの従者になった。私達も、それを認めて彼を育てたのよ。もう、夫にしろだとか言わないけど、ロージアの剣の役割を与えてあげた方がいいわ。そうすれば、あなたが喚べば夢の中だとしても彼を呼び出せる。」
「僕の眷属になるって事は…寿命を無くし永久に生き続けるって事だよ…あの馬鹿が、どこかの誰かに恋をして…その相手と共に人間としての人生を全うしたいと言っても戻してやる事は出来ない。」
「だから?」
ディアーナは冷たく言い放つ。
「ライアンを巻き込みたくないみたいな言い方をして、逃げようとしているのはロージアでしょう?あの馬鹿が望んでるって言ってんのよ。でなければ、魔王ロージア、随分と甘ちゃんになったわね!自分にも、他人にも!他人の命も人生も、平気で踏み潰していたのに。…まあ、嫌なら仕方ないわね、夢の中で一人で頑張って貰うしか…。抱かれても…ねぇ…。」
それは困る!!!
「ちょ…ちょっと待って!!け、眷属にするって具体的にどうすればいいの!!レオンハルトが、人間だったディアーナを聖女にする為には抱かなきゃいけなかったとか言ってたんだけど!!」
男に抱かれたくないと言ってる僕が、ライアンを眷属にする為にあの馬鹿に抱かれろとか言われたら、本末転倒だ!
「……………………?……そう言えば……どうすんだろ?」
「肝心の情報無し!?散々、言っといて!?ほんとに揺るぎない馬鹿だよね!ディアーナって!!」
「はぁ?ンだと?こら」
僕はベッドの上でディアーナにチョークスリーパーなる技を掛けられていた。
ジャンセンが部屋に現れるまで。
「一瞬、ディアーナが背後からロージアを抱き締めているのかと思いましたよ。まさか絞め技を使っているとは……。」
部屋に現れたジャンセンは椅子に腰掛け、脚を組む。
ベッドの上でディアーナから解放された僕はグッタリと横たわる。
「ライアンを眷属にするんですって?それは賛成ですね。」
「あら、師匠ったら話を聞いていたのね…エロいわね。」
「ど変態の姫さんには、言われたくねぇな。…まあ、いーや…隣の部屋のアホ二人も呼んだから、ちょっと話ししよか?」
やがてロージアの部屋のドアがノックされ、オフィーリアとライアンが部屋に入って来た。
ライアンはジャンセンの姿を見るなり、驚きの声をあげる。
「師匠!なんで師匠がここに!?貴方は普通の人間……!」
「バーカ、お前みたいな化け物に剣や魔法を教えられる人間がこの世に居るワケ無いだろ?これが俺達の親父で、この世界の創造神サマサマだ。」
すかさず天使のような姿の美少女オフィーリアが、顎でジャンセンを指しながら、少し小馬鹿にしたように紹介する。
「そうです、私が創造神サマサマです!……後で覚えてやがれ、レオンハルト…。」
ジャンセンはオフィーリアの紹介に乗った後に、凄く恐ろしい目をしてオフィーリアを睨んでいた。
ディアーナといい、レオンハルトといい、ここの馬鹿夫婦は怖いもの知らずで見てる方がハラハラと怖くなる。
人間だと思っていた自身の師匠が、実は創造神だと知ったアホのライアンでさえ、青ざめた顔をしているのに。
「まぁ、いーや。このまま話し進めてくぞ?」
椅子に腰掛け長い脚を組んだジャンセンが腕も組み、部屋に居るディアーナ、オフィーリア、ライアン、僕を見る。
「俺の、蟻飼育セットを奪おうとしている阿呆がいる。」
ジャンセンの一言にディアーナは不敵な笑みを浮かべ、オフィーリアは笑顔でディアーナを見る。
ライアンは………ジャンセンの言う意味を分かってない。
分からないよね、蟻飼育セットなんて言われてもさぁ。
この世界には、そんなモノ無いし…。
僕だってディアーナの前世の知識を創造神界で勉強しなかったら分からなかったよ。
そして、ジャンセンがこの世界をそう呼んでいる事も。
「よほど魅力的に見えたんだろうな。この世界が…この………………。」
話の途中でジャンセンが黙りこくった。
「師匠?どうしたのよ。」
「うん…たいした事ではないんだけど、俺、この世界に名前つけてないわ。」
この世界が生まれてから2000年以上経って、創った本人が気付いた意外な事実。
「今さらじゃね?ずっとコッチの世界とか、蟻の飼育セットだとか蟻の水槽だとか、愛情の欠片も無い呼び方してたじゃん。」
オフィーリアが呆れたように言う。
「俺達、神の一族が喧嘩を売られたんだぞ?勿論、相手が神でも神でなくてもぶっ潰すが…その俺達の闘いが後世に伝えられた時に『こちらの神の一族が勝利し、こうして蟻飼育セットの平和は守られた』とか、やじゃね?」
「それはいかんわ!!」「蟻飼育セット界の女神とか呼ばれんの!?やめい!」
僕は、意味不明に騒ぐジャンセンとディアーナとレオンハルトを冷めた目で見詰める。
すごく…深刻な話をしていたんじゃなかった?
蟻飼育セットはもう…口にするのやめようよ…。




