魔王は未熟、女神は喧嘩上等。
ライアンを自分の部屋に返し、一人部屋に残ったロージアは、ベッドの縁に腰掛けたまま思考を巡らせる。
どんな夢を見た?
何だか腹が立つような事を言われた気がするが、どんな奴に何を言われたのか記憶に無い。
神に名を連ねる者とは言え、自分がまだ神の世界では新参者で、神としてどころか、人としても未熟なのだと現実を突き付けられた気がした。
「強く…ならなきゃ駄目だ。…ああ、でも強くなるには魔王にならなきゃなんないの??そうして、また倒されるの?分からないよ…どうしたらいいの…。」
頭の中がぐるぐるして考えがまとまらない。
こんな時、ディアーナの
「難しい事、考えるの嫌いだわ!なるように、なぁれ!あは!」
って言ってのける、おおざっぱな性格が羨ましく思える。
本人はいいかも知れないが、お陰で振り回される回りの身になって欲しいものだ…。
回りの事など知らん!と言われるのだが。
「でも、頭の悪いディアーナの言う通りなんだよな、今、考えたってどうしようもない。何の情報も無いのだから。」
ロージアは、自身を無理矢理納得させた。
背後に立ち悪魔のように微笑む、藍色の髪に、金の瞳をした……
変態女神が居る事に気付かずに。
「ねぇロージア……誰が頭が悪いって?」
「うきゃー!!で、ディアーナぁあ!出たぁ!どこ触っ…ギャー!」
背後からいきなり抱き着かれ、身体中撫で回される。
サワサワと胸やら腰やらモモやらを撫でられる。
「き、キモ!ギャー!キモ!やめてー!!」
「相変わらず感度いいわね!ロージアみたいに可愛いコなら、おねぃさんのヨメにしてあげてもいいわよぉ。」
「なんで、男の僕が女のディアーナの嫁になるのさ!あったま悪っ!バッカじゃないの!………あ…嫁…!」
ディアーナに背後から抱き着かれた状態でロージアが止まる。
僕、今、ディアーナに言われたのと同じ事を言われた。
ディアーナみたいな顔をしたヤツに!!
「ディアーナ…!だよね!?」
思わず振り返って確認をしてしまう。
夢の中のヤツじゃないよね!?
「……あら、もう何かされたの?……ムカつくわね、私の可愛いロージアにちょっかい出しやがって。クソごみ虫が。」
……この口の悪さは間違い無くディアーナだ。
見た目は本当に美しい……女神と言われているだけあってディアーナはかなり美人だ。
……ただ、どうしようもない位に口が汚いし、変態だし、頭もおかしい。
何で僕は、こんな変なのを好きなんだろう…。
「……ディアーナ……何か…知ってるの……?」
今はディアーナの残念っぷりを嘆くより、自身の身に降りかかりそうな危機についてだ。
あんな、オナベなディアーナみたいなヤツの花嫁なんて、冗談じゃない。
「知っている…と言うワケじゃないんだけど…最近、私よく狙われるのよ。誰かさんに似てるらしいわ。だから、生け贄に相応しいんですって。」
「生け贄……?襲われるの?…それは……気の毒な話だね……」
ディアーナを襲う奴等が可哀想…。
敵うわけ無いし。
魔王の僕を魔力無しで物理的に倒すメスのゴリラだぞ。
襲い掛かった所で、オモチャにされるのがオチだ。
それは置いといて…ディアーナの言う、誰かさん…
間違い無く、夢の中に出て来たヤツだ。
「最近デビューした、魔王なんですって。名前は知らないけどね。」
ディアーナは不敵に笑う。
「この世界に魔王はロージアだけよ。そんな自称魔王、いらねーのよ。ぶっ潰したるわ。」
不敵を通り越して、何かエグい顔になっている……そんな顔を、愛するレオンハルトの前でもしているの?
しているんだろうね……レオンハルトもディアーナ菌の病気持ちだから。
レオンハルトなら、ディアーナがツルッパゲで、鼻毛ボーボーでも美しいとか言うに違いない。
「ぶっ潰すって…その魔王が…僕や、ディアーナより強かったら…どうするの?」
僕の夢の中に勝手に侵入して来て、僕を捕らえ、僕の首筋に赤い痕を残した。
この僕が、抵抗出来ずにそれを許したのだと…腹立たしさと共に、自分を越える力を持つかも知れない相手に不安を覚える。
「望む所だわ。強いヤツ程、倒し甲斐のあるヤツは居ないでしょう!?て、ゆーか魔王名乗ってる時点で、そんなヤツはプチ決定だし。」
腕を組んで仁王立ちするディアーナは、夢の中のオナベみたいなディアーナより男らしい。
漢らしい??そして、楽しそうだ。
「……そっか……うん、悩んでたって仕方ないか!」
「そうよ!ロージア!一緒に遊びましょう!……ギッタギタにしてやろうぜ?そいつを!鼻の穴にオクラ突っ込むわよ!」
……なぜオクラ…?…
で、出来るのかなぁ?ディアーナそっくりな、そいつを殴ったり……攻撃したり…鼻の穴にオクラ突っ込んだり。
僕はディアーナの顔をした奴に攻撃なんて、躊躇ってしまいそうだけど、ディアーナ本人や、レオンハルトは…どうなんだろう?レオンハルト……
「あ…そう言えば、レオンハルトは?一緒に来てないの?」
「レオンならライアンの部屋に居るわよ?さっき、スティーヴンに愚痴いっぱい聞かされていたから、すこぶる機嫌悪いけど。」
「……あー……スティーヴン…ライアン殺す気だったもんな……スティーヴンが人を殺そうとする所なんて、初めて見たよ…。」
「そうね、私の婚約者で王子様だった甘ちゃん時代からは想像つかない位、器が大きく、そして怖くなったわよ。頼もしいわね。」
隣の部屋に続く壁に目が行ってしまう。
怒鳴る声や、暴れ回る音が一切しない。
怖い程に静かで、それがまた、恐ろしい。
隣の部屋で、レオンハルトとライアンは、どんな話をしているのだろうか……。
「ライアン……。」
「……はい……。」
「揉んでみる?」
「結構です……。」
ライアンはベッドの脇で正座をし、ベッドには足を組んだオフィーリアが座っている。
「欲求不満なんじゃないの?私で良かったら、あなたの性のはけ口になってあげても…いいわよ…初めてだから、優しくしてくれたら…。」
「……吐きそうです。やめて下さい……。レオンハルト兄ちゃん、オフィーリアさんに見えてるだけで、本人のまんまじゃないですか。……細マッチョで、カチカチだし、揉むモノだって無いクセに。」
「はっはっは!意気地無しめ!」
オフィーリアはベッドに腰掛けたまま大股を開いて、前屈みになりライアンに視線を合わせる。
ロージアや、母のリリーに似た顔で大股を開くオフィーリアにげんなりするライアンは、オフィーリアから視線を逸らした。
「スティーヴンが苛立ったのは、ロージアの事だけじゃないんだよな。最近、創造主の機嫌が悪い。スティーヴンは創造神界にずっと居るから、マトモに影響受けちまってな。まぁ、タイミング悪かったわな。」
ライアンは少ない脳ミソで考える。
じゃあ、俺、あそこまで脅される必要無かったの?
そんな考えが顔に出てしまう。
「スティーヴンじゃなくて創造主がライアンの所に来ていたら、脅される前にお前もディアナンネも、おトンもおカンもこの世から消えてたがな。」
こっわ!!創造主様、こっわ!!
「何者かに、喧嘩売られてるみたいでな、俺達。」
「……え?……」
「ロージアを含む、神の一族に喧嘩売って来たヤツがいるっぽい。創造主がピリピリして、スティーヴンも影響受けてピリピリしている。」
この世に、神の一族に弓引いて喧嘩を売るような奴が居る事自体、ライアンには信じがたい。
そして、レオンハルトには創造主やスティーヴンと違い、緊張や苛立った雰囲気が無い。
「……みんなピリピリしていて…ディアーナ姉ちゃんは……?」
ベッドに腰掛け、大股を開いたオフィーリアは鼻で笑う。
「すっげ、喜んでるよ。暴れ回る口実が出来て。だから俺も、悩むのがアホらしくなったわ。」
ですよね!!!!やっぱりね!!!喧嘩上等だもんね!!!




