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魔王様の執事参上。

地面を押し上げ芽吹いたばかりの種付きの芽のように、ボコッと盛り上がった地面から得体の知れない物が溶解したようにドロリとした顔を覗かせている。


そのぶよぶよした顔のような醜い肉の塊を、「魔王様」と呼んで歓喜するローブ姿の男達の背後で……

魔法陣の中央に横たえられた、心臓に10本の剣を突き立てられ絶命した美しい(かんばせ)の少女がユラリと立ち上がった。


「キャアア!!」「いやぁ!」


生け贄の順番待ちをさせられている少女達が立ち上がったロージアに悲鳴をあげ始め、その声にローブ姿の男達が背後を振り返る。


「な、なぜ生きている!?」


ローブを纏う男の一人が驚愕の顔を見せ、震える声を出しロージアを指差した。


ロージアの胸を貫く剣は男達の見ている前で塵となり消え失せ、裂かれた衣服も流れた血も、全て元通りとなっていた。


「……魔王だって?僕を騙るお前は誰なのさ……ムカつくんだけど。」


ローブの男達を無視して、ロージアは地面の中から這い出しそうなソレに向け、足元の影から出した黒い蔓を何本も伸ばす。


鞭のようにしなる蔓は地面から顔を出す肉塊を絡め取り、ボコッっと土の蓋を飛ばしてソレを高い位置に掲げ、その姿を晒した。


それは、人の首に鎖骨の辺りまでが残された胸像のようであり、だが頭蓋は大きく欠け皮肉はグズグズで、人ならざる者であるのは勿論だが、なぜこんな物が魔王と呼ばれるのか分からない位に脆弱な代物だ。


「まぁぁおぅの……!わしに……無礼なぁぁ……!」


あ、自称しちゃってんのか。で、信じられちゃってんの?

何で信じるかな?こんなんを魔王だなんて。

魔王ナメてんの?


ローブの男達に動揺が走る。


殺した少女が生きており、人ならざる力を見せつけ「魔王様」を容易く捉え宙に浮かせ晒した状態で、嘲笑を見せている。


「お、お前は何者だ!!ま、魔王様を離せ!!」


「え?この期に及んで、まだコレを魔王様だなんて呼ぶの?信じらんないよ。」


ロージアは自称魔王の肉の塊を激しく地面に打ち付けた。


「ま、魔王様!!!」「おのれ、小娘!!」


悪態はつくがロージアを止める事が出来ず狼狽えるローブの男達の前で、ロージアは肉の塊を何度も何度も地面に叩きつける。


「こんなんでも魔王って思っちゃったし、もう引っ込み付かないのかな?人間て愚かだね。それにしても久しぶりだね。」


激しく地面に叩きつけられた肉の塊は、頭蓋もほぼ欠けてしまい、片目と鼻、口だけの塊となった。


「教皇ワイリー、僕だよ。妻のリリー…いや、オフィーリアに倒されたと思っていたら、また会えるなんてね。……まさか主君の顔を忘れたなんて言わないよね?」


ロージアは蔓で絡めた肉塊を目の前に持って来て、その残った片目に自身の姿を映させた。


「……!!ろ、ロージア……さま……ぁ!お、お許し……」


ローブの男達が魔王様と呼んでいた物が、生け贄にした少年のような出で立ちの少女の名を「様」を付けて呼び、許しを乞うのを見て、男達は慌てたように跪き、頭を地面に擦り付ける。


「……ディアーナの前世から引っ張り出した時代劇にあったなぁ…こんなシーン。」


創造神界で引きこもり状態だったロージアは、ディアーナの前世である香月の記憶から生み出した映画等などを見ていたので、この状態が印籠を出した後の「ははぁー!!」ってアレに似てるなぁなんて思ったりする。


「教皇、僕はねームカついてるんだよ。お前みたいな醜い糞が魔王である僕を騙り、少女達を集めてさあ…で、僕も生け贄にされたんだよね。それはまぁ、人間のふりをしていたんだから仕方ないのかも知れないんだけど……。」


ロージアの澄んだ青い瞳が紅いルビー色に染まる。

足元から生やした蔓には大きな棘が生まれ、太いイバラの鞭となり、教皇と呼んだ小さな肉片を刺し貫く。


「こいつら、僕の胸を見たんだよね!!有り得ないよ!!お前のせいだからな!!もう二度と復活すんな!バァカ!!」


パアンと弾ける音を鳴らし、教皇は砕け散った。

ロージアはゆっくりローブの男達に目を向ける。


「………次はお前らの番だよ…大好きな魔王様直々に手を下して貰えるんだ……有り難く死を享受しろよ。」


「ま、魔王様っ!?」「ち、違うんです!我々はアレに騙されて…!」「魔王様!私は死にたくない!」


あーうるせぇ。死にたくない?少女達だって死にたくないのを今まで殺してたんだろ?

別に可哀想とか思わないけどさぁ。


「あの子達だって死にたくないよ?僕も剣を刺されたくなかったよ?まあ、その辺りはたいした事じゃないんだけどさ。……でもお前達、僕の胸を見たんだよねぇ…」


思い出しただけで腸が煮えくり返る。


「死んじゃえ………!」「ロージア様!!」


攻撃をしようとしたロージアの身体が、フワリと風に舞うように優しく抱き上げられた。

同時にゾゾゾっと怖気が走る。


金色のストレートヘアを高めの位置でひとつに縛り、黒い燕尾服を着た青年にも見える大人びた美しい少年は、不意に現れロージアを抱き上げ、ロージアの頭に自身の頬を擦り寄せて当てる。


「お探し致しました…無事で良かった…。」


無事で無いワケが無い。

どんな攻撃もある意味ロージアには通じない。

ロージア自身が人間のふりをやめていれば。


「ああ、失礼致しました…。喜びの余り、つい……。」


顔も身体も硬直させたロージアをそっと下ろし、ライアンはロージアの前に跪く。


「ロージア様、御待たせ致しました。共に世界を見て回りましょう。俺は貴女を守り、貴女の盾となり剣となります。」


キラキラな表情のライアンを前に、ロージアは足元から生やしたイバラの蔓をシオシオに萎れさせ、どんより茫然と立ち尽くす。


「……お前……この状況……分かってないの?」

「え?」


地面に描かれた魔法陣と、その端で固まって怯える拘束された少女達。

ロージアの背後には、土下座状態から立ち上り、逃亡を図ろうとするローブ姿の大勢の男達。


「ああ、今、分かりました。俺が殺すに値する人間達です。」


ライアンはニコリと紫水晶の瞳を細めると、一瞬で30人程いたローブの男達の首を跳ね飛ばした。

ライアンが剣を出し構えた姿を誰も視認出来ぬ一瞬の間に。


ただ一人の男を残し。


「ライアン…お前、人を……。」

「殺せますよ?ですが誰でも彼でも殺したりはしません。俺にとって殺すに値する人間だけです。そして命を絶つ時は、いたずらに苦痛を与えるような事はしません。ですが……」


ライアンは一人残したローブの男に近付くと、その男の右手首を捻りあげた。


「何でテメェのきたねぇ手に、ロージア様の美しい御髪(おぐし)が絡まってんだよ。テメェ、ナニしやがった?」


え!美しいおぐし!?キモッ!ライアン、何かキモッ!

キャラ変わり過ぎ!!


「……ほう……あ?何だと?マジか!?」


誰と話してんの!誰にナニ聞いたの!!怖い!ライアンが、僕の甥っこが怖い!


「ザケんな!!テメェ!!」


ベキッ!鈍い音が響いた後に、ライアンに手首を掴まれた男が断末魔のような悲鳴をあげ、地面を転がり始めた。


「ひい、ヒィイ!ちが、ちがっ…!お、俺を馬鹿にしたので!それで!つい!か、髪を…!」


男の手首が千切れかけ、手首の先が皮一枚残した状態でブラブラと揺れている。


「馬鹿にされた?それが魔王たるロージア様に触れていい理由になんのか?ならねぇよ。俺の美しいロージア様を汚しやがって。」


ちょっと!ちょっと!怖い!ライアン怖い!


「お前みてーな輩は、長い時間をかけて苦痛を与えて殺してやるから、自分のした事を悔いながら…」

「も、もういーから!ライアン!サクッと殺してやって!」


「はいっ!!!」


ロージアからの初めての命令に目を輝かせたライアンは、サクッと男の首を跳ね飛ばした。


━━この僕が、髪を掴んだあの男を気の毒に思ってしまうなんて…マジか……ライアン……つ、疲れる!!!━━━


ガクリと脱力し、その場に両膝と両手をついたロージアを、ライアンが再び抱き上げた。


「お、下ろせよ!ナニすんだ!!」

「駄目です、かなりお疲れの様子…そんなロージア様を歩かせるなんて出来ません。」


ロージアの目が、ローブの男達の死体に囲まれ茫然と此方を見ている少女達と合う。


「あ、あの子達を何とかしなきゃ!だ、だから下ろせよ!!」


「大丈夫です、俺がロージア様と旅をするにあたってフォローしてくれると言って下さる方が居るので任せますよ。ちゃんと一人一人無事に返してくれます。」


ロージアを抱き上げたライアンの背後に、人が現れた気配がする。

ロージアは、すくめていた首をのばしライアンの肩越しにその人物を見た。


「す、スティーヴン!!」


ロージアと目が合ったスティーヴンは、生暖かな表情を見せた。その口がパクパクとナニかを語る。


『ドンマイ!』


「ば、ばかーーー!!!!」






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