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魔王の執事誕生?

クローディア王女がセフィーロ国の女王となり一年が過ぎた。


若い国王であるクローディア女王は国交に力を注ぎ、その際セフィーロ国の方から、ディアナンネ国に国交を求める使者が訪れ、この2つの国は友好国となっていた。


「ああ…平和だな……」


ディアナンネ国王レオンハルトは、のどかに拡がる畑と、そこで戯れる美しい妻と、幼い我が子を優しい顔で………鼻の下を伸ばしたデレッデレッな顔で見ていた。


「セフィーロ国とも良い関係を築けたし…一年前に、あの馬鹿の書いた手紙を見た時はどうなる事かと思ったが…。」


一年前、ライアンがフレイア王女と恋人の青年を連れて玉座の間に現れた時、ブドウまみれのフレイアの肩に白い蝶がとまっていた。


それはライアンが書いた手紙で、レオンハルト国王が手を触れると一枚の便せんに変わった。


『魔王の側近に、俺はなる!!』


と一言書いてあった。


ライアンと一緒に現れた時期セフィーロ国王であろう少女の、ライアンに向ける恋心に気付いたレオンハルト国王は、息子のライアンがセフィーロ国王の夫になったら有り難いなぁと思ったりしたのだが、その便せんを見た瞬間に自分がいかに無駄な期待をしたのかと腹立たしくなった。


「まぁ、なんのかんの言っても…無事、良い関係は築けたからな…良かった良かった…。後はもう、アイツと我が国は無関係って事で…。」


「ねえねえ王様!会いましたの!?」


畑の中を、でかい身体を揺らした大きな女が走って来る。

その隣には、小さな赤子を抱いたゴボウのような青年が居た。


「フレイア、どうした?あまり走ると倒れるぞ。ほら、息切れが…」


笑ってはいけないのだが、一生懸命走って来るまん丸なフレイアに思わず笑みが溢れる。

幸せ太りも、ここまでくるとなぁと。


「王様!ライアン様が来ておりますわよ!先ほど、森の中を歩いて行く姿を見掛けましたわ!」


丸々と肥えたフレイア元王女の言葉に、レオンハルト国王の顔が笑顔のまま青ざめる。


ナ、ナンダッテ……?ウソダロウ?


「アイツと、この国はもう無関係なんだ!!何で、シレッと帰って来てるんだ!あの馬鹿!」


「まぁまぁ王様、ライアン様がアタシを殺したなんて言っても、今更誰も文句を言いやしませんよ。文句を言いそうだった人達も一緒に斬っちゃってるし。」


ふぅふぅと息をしながら、フレイアは流れる汗を拭く。

ゴボウのような細身の青年は、フレイアの身体を一生懸命、手製のウチワで扇いでいた。


「追及された所で、アタシはこうして生きてるワケですし?あれはアタシを救う為の茶番だったと言えますわ。」


レオンハルト国王は、力無く笑う。

果たして、彼女が「アタシがフレイア王女よ!」と名乗りをあげた所で、信じて貰えるのだろうか…。


「まぁ…この国が世界の国々から敵視されたとしても…一応は神の加護のある国だからな…国が危うくなるような事にはなるまい。………しかしライアンは、森の中に何を…。」




レオンハルト国王は城に帰ると、妻のリリーと共に応接室にてライアンを待った。


「国王陛下、ライアン様がお見えになりました。」


この城で執事として働く、歳をとったヒューバートがライアンを連れて応接室に来た。

いつものように、いきなり転移魔法を使って唐突にわいて出るかと思ったライアンが玄関から訪問し、執事に案内されて応接室に来る。


不思議な光景を見た気がした。


「父上、母上、お久しぶりです。」


ライアンはレオンハルト国王に届くような身長となっており、長い金髪を高めの位置で結び、旅装束ではなくこの世界では珍しい燕尾服を着ていた。

レオンハルト国王は応接室のソファーの向かいに座らせたライアンを不躾に見る。

我が息子ながら急に大人びて、妙に整った出で立ちが何だか鼻持ちならない。


「……お前みたいなヤツを、カッコつけしいと言うらしいぞ……」


レオンハルト国王はブスっとした顔つきで、腕を組んでライアンに言い放つ。


「べつにカッコつけてるワケじゃないんだけど…俺の師匠が、騎士や剣士でいるよりは、こうした方がいいと…。」


レオンハルト国王が、ヒクッとひきつる。

今、とんでもなく聞きたくない、昔よく聞いた懐かしい言葉を聞いた。


師匠。


「……師匠が…いるのか?ディアーナ様とレオンハルト様がお前の師匠ではなかったのか?」


「ディアーナ様とレオンハルト様は、俺の姉と兄みたいなもので、師匠とは違うんだよね。」


レオンハルト国王は、懸命に記憶を辿る。

自分の記憶の中に、師匠と呼ばれていた人物は一人しかいない。

そして、そう呼んでいた人物も一人しか思い当たらない。


ディアーナは、ジャンセンの事を父だと言うが、呼ぶ時はいつも師匠と呼んでいた。

なぜ、そう呼ぶのかは知らないが…


いや、だからと言って…ライアンの師匠があの方とは限らないではないか。

こんな、軟弱そうな色男みたいな格好をしろと勧めるなんて。

きっと、あの方ではないだろう。

ライアンは旅をする中で、剣だか魔法だかの師事するべき師を見付けたのだろう。

ごくごく普通の人間の。


「……あなた、現実逃避はおやめなさい……あの方が、ライアンに関わって来ないハズ無いでしょう?」


レオンハルト国王の隣に座るリリーが、氷の微笑を浮かべている。レオンハルト国王は、「やっぱり?」と泣きそうな顔でリリーを見た。


「……ライアン、その…お前の師匠とやらも……神の一族なのか?」


「師匠?師匠は普通の人間だよ?ディアーナ様やレオンハルト様とは違う。……かつては、亡国で隠密部隊に居たと聞いたけど……。」


あー……そーゆー事ね。はいはい。

ライアンには人間のフリをして師匠やってると。

もう、隠密部隊って聞いただけで真っ黒な衣装の、腹の中まで真っ黒な人しか思い当たらないわ。

よし、諦めよう。



「……で?わざわざディアナンネに顔を出した理由は何だ。セフィーロ国王の求婚を蹴って、一年前に何処かへ消えたと聞いていたがな。」


レオンハルト国王はやれやれと言わんばかりにソファーの背もたれに身を預け、深いため息をつく。


「五年前の、父上の問いに答えを。」


ライアンがそう言った瞬間、透明な剣先がレオンハルト国王の喉元に在った。


「ぐっ…!!」

「ライアン!!」


リリーが顔から血の気を引かせソファーから立ちあがり、叫びにも似た声でライアンの名を呼ぶ。


レオンハルト国王は、ライアンが動いたのを認識出来なかった。

向かい側のソファーに座っていた筈のライアンが片足をテーブルに乗せ、何処から出したのか持ってはいなかった剣を持ち構え、その剣先をレオンハルト国王の喉元に当てている。


「魔王を生み出さない為にならば俺が人を斬り、屍の山を築く事も厭わない。父上が、かつての皇帝のような人物に成り得るのならば、この手で父上を斬る事も。」


ライアンは剣を引きテーブルから足を下ろした。

手にしていた剣はいつの間にか消えて無くなっている。


「……お前は、化け物か。たった、4、5年で何という成長を……」


「必死だったんで。……今は、ロージア様を…妻にしたいとは言えませんが……それでも傍に居たいと思ってます。」


ライアンは苦笑しながら言いにくそうに言い、応接室の大きな窓の前に行くと太陽を背に受けるようにして立った。


「父上、母上、俺があなた方をそう呼ぶのはこれが最後となります。今まで息子の俺を愛し、慈しんでくれてありがとうございました。もう、俺とこの国は無関係です。………ディアナンネ国王陛下、王妃殿下、いつまでも、お元気で。」


太陽を背に執事の出で立ちでボウアンドスクレープをしたライアンは、そのまま姿を消した。


「……言いたい事だけ言って消えおってからに…あの馬鹿は…」


リリーは涙ぐみ、レオンハルト国王は声を殺して泣き出した妻を抱き寄せた。


「本気の恋をしていたのだな…そんな息子を応援してやろう。」


「……そうね……相手が…あの兄で、その兄の今の家族が…アレですけど……応援してあげて良いのかしら……。」


リリーを抱き寄せたままレオンハルト国王が複雑な顔をし、「まぁな…」と小さく呟いた。




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