5# 温室の危険な薔薇
「ロージア様は、王子様なんですか?どうして、このような離れに?」
ミーナが核心を突いた質問をする。
本来ならば庶民であるミーナから、恐らく皇族の関係者であるロージアにこのような質問する事は不敬にあたる。
だが、有頂天になった彼女達は認知欲求と言うのだろうか?彼の事を知りたくて矢継ぎ早に質問をする。
「勝手に答える事は出来ないんだ…ゴメンね…?」
ロージアは困った表情を見せて儚げに苦笑する。
あーあざとい野郎だわ。ウゼー。
私はめんどくせぇ、と少し困ったような顔をする。
それがロージアには、私が彼を心配をする顔に見えたようだ。
目が輝く。
「ゴメンね、僕…少し休むよ…また、来てね?」
柔らかい口調で、さりげなく少女達を追い払う。
「また、来ます!ロージア様!」「必ず来ます!」
ミーナとビスケは互いを牽制し合うように自分をアピールする。
リリーは無言で頭を下げ、二人の後について温室を出て行く。
「じゃあね、ロージア様。」
私はロージアに背を向け、温室から出て行こうとした。
「ディアーナ…」
いきなり、背後から緩く抱き締められた。
抱き締められた事には驚かなかった。
こいつ私に気配を悟られないまま、テーブルの位置から温室の出入口までの決して短くはない距離を、いきなり詰めて来やがった!そっちの方が驚きだわ!
少し駆けただけでよろけていたアレ、病弱なフリ?
「僕が何者か…気にならない?」
「…あなたは、わたくしを何だと思っているの…?」
私の正体を知っている?と思って聞いてみたが…
私のした質問の意味を理解していないようだ。
「ラジェアベリアという遠い国から来た、強い女の子…?」
それなら、それで都合がいい。
聖女や女神と呼ぶには魔力の無い私は、普通の人間の少女と同じようにしか見えない。
「そうよ、わたくしラジェアベリアの王子様と仲良しだったの。だから、あなたが王子様でも興味無いわ。」
「…ふふっ、ナニそれ…君って、色んな妄想持ってるんだね」
まぁ、信じないでしょうね。
私は、するりと彼の腕から抜ける。
「そんな、架空の国の架空の王子様なんかより、僕のモノになってよ…僕、君が気に入ったんだ…。」
何だろう…この感覚…どこかで経験したわ…。
髪に触れようと手を延ばすロージアから一歩後退る。
「ロージア殿下!いい加減にして下され!私が陛下に叱られるんですぞ!」
アゴーン皇帝の側近が、両手に拳を握って震えながら声を上げる。
「ちぇっ…つまんないの……ふふっ、そんな怯えないでよ…」
アゴーンの側近の手が震えているのは、怒りからではなく、怯えから…なの?
こいつ、何者?
「また、来てねディアーナ…来なかったら僕が会いに行くよ?」
こいつ…本当に何者?
私は、冷や汗だらだらの皇帝の側近と離れを出て、城に向かう。
「ねえ、側近ジジイ…アイツ、何なの?」
「……私からは…説明出来ない…陛下に尋ねてみるといい…」
「勝手に入ったのを許したとか、咎められるんじゃない?」
「そっちの方がマシだ、お前…いや、姫に何かあったら…私の首が飛ぶ…。」
私に…何か起こる可能性があると?
城に戻った私は、アゴーン皇帝の所に向かった。
一足前に城に戻ったミーナとビスケは、ロージアについてキャアキャア楽しげに語り合っている。
いや、多分彼の存在はタブーだろう。
城の中でキャッキャ話して良いものではない。
リリーはそれを理解しているのか、二人に人差し指を立て黙るように促す。
本当に、出来の良いオフィーリアみたいだわ、リリー。