魔王の部屋に…来る…きっと来る!!来たー!覇王!
ライアンに急な別れを告げたディアーナ達は、少し離れた場所でライアン達の様子を伺っていた。
さめざめ泣いた後に、自身の足で歩き始めると決意したライアンに思わず微笑む兄貴と姉貴。
「思念伝達でいきなり親父が送って来たチャート表、見たか?ゲームの攻略本みたいなやつ。」
「見た見た、いきなりダイレクトに脳に映像送るとかエグいわね師匠…。あーライアンの将来にも分岐あったわね。その中に、セフィーロ国女王陛下の夫ってのもあったわね。まぁ可能性のひとつとして…おかしくは無いでしょう。」
ディアーナとレオンハルトは無言で互いの顔を見る。
二人の目から見ても明らかに、クローディア王女がライアンに一目惚れしているのだと分かった。
命の危機を救ってくれた、強く、凛々しく、美しい少年。
しかも王子でもある。
今の王女の置かれた立場から考えれば尚の事、惚れない理由が無い。
「だがアホだ。」「うん、どうしょうも無い位にアホね。」
二人はハハハッと渇いた笑いを溢す。
「ライアンの人生だもの。女王の夫として人生を全うしたいならば、それでもいいと思うわ。…少し…寂しい気はするけどね。」
「まあ、細かい分岐を挙げればキリが無いんだろうけどな。ディアナンネに戻って剛力農夫ってのもあったし。……で、俺達はどうする?隠れてライアンの成長を見ているってのも出来るが。」
「そんなの、勝手に成長させときゃいいのよ。あのコローンってオジサマがしっかりしてそうだし。」
「コーランな?」
「スティーヴン殿下が時々、様子を見に行くんでしょ?ならほっときゃいいわよ。」
あのオツムの足りないライアンが、どんな成長をするのかは分からない。
単純だから、クローディア王女とコーランを守って共に行動する内に情が湧き、二人と別れ難くなっているかも知れない。
敵を排除するだけではなく、人を守るという事も理解してくれたらいいなと思う。
あと、ただの脳筋のままなのか…ちゃんと人に仕えるだけの必要最低限の礼儀作法位は身に付けれるのか…。
「ライアンはほっときゃいいけど、問題は魔王でしょう?下界に再び魔王として生まれるまで、ずっと引きこもりだとか許さないわよ!あの子も世間知らずだもの」
ロージアが魔王として生み出されて20年を過ぎた。
ロージアが生まれてからの最初の5年に魔王としての自我は無く、自身の生れた大国を喰らい滅ぼす為に存在していた。
生まれて5年経った時にディアーナと出会い、ロージアはディアーナを愛した。
自身が魔王だと知り、結果、ロージアはバクスガハーツ帝国というひとつの大国を滅ぼした後に自身はディアーナに倒され、魔王は下界から消えた。
そして魔王は、再び下界に呼び出されるまで出待ち状態である。
それは…逆に言えば魔王が生まれないで済む位には、下界が平和な証しのだから、いいと言えばいい。
「だからって、呼び出されるまで引きこもりって、どうなのよ!!ロージアを下界に引っ張り出すわよ!!」
鼻息を荒くして息巻くディアーナを、レオンハルトが背後から抱き締める。
「やっと…二人きりで旅が出来ると思ったのに、また子守りをするのか?ディアーナ。」
ディアーナの肩にレオンハルトが顎を乗せ、耳に息を吹き掛けた。
「…そ、それは…ね…?…えっと…あの…」
嫌な予感がするディアーナは冷や汗をダラダラかき始める。
これは逃げないと危険が危なくデンジャラスだと本能的に察知したが、レオンハルトに抱き締められた身体はガッチリとホールドされ身動きが取れない。
「ロージアを旅に同行させるなら、今の内にたくさん愛を貯めとかないとだな!」
レオンハルトがディアーナを肩に担ぎ上げる。
「今朝まで貯めまくったでしょーが!!私、寝てないって!!」
「奇遇だな!俺も寝てない!ほら、朝まで過ごした宿屋が目の前に!ライアンに見つからない内に入ろう!」
「何でよ!!!!!ちょっ!死ぬ!!」
再び、今朝出て来たばかりの宿屋に入る二人。
翌朝ディアーナはベッドの上で干からびたニボシのようになっていた。
「ディアーナ!ご覧!朝日がキレイだよ!!!」
「黙れ!!ケダモノ太陽!!」
創造神界。神の一族が住まう白い空間だけが無限に拡がる世界。
ロージアはこの世界に自室を作り、その中に引きこもっている。
たまーーーに部屋から出るが、基本また自室に引きこもる。
最近はディアーナの前世の日本文化に興味があるのか、何も無いが望めば現れるこの世界にて、ディアーナが前世に見た映画を所望し、観ているらしい。
ロージアの部屋の入り口が、ファスナーを下ろしたようにスーッと開かれる。
「ろぉお……ぢぁぁあ………」
切れ目のように開かれた隙間から、赤く血走る大きく見開かれた金色の目が中を覗く。
「ギャー!!さ◯゛こ!!」
ロージアが恐怖し、大声をあげる。
「何がギャー、さ◯゛こだ!あんたが呪いの親分みたいな存在のクセに!井戸から出て来たんじゃないわよ!ベッドから這い出て来たけど!」
ロージアの部屋の入り口を強引に開いて中に入って来るディアーナ。
ディアーナはロージアの腕を掴む。
「寝てないのよ…寝れないのよ!寝かせてくれないのよ!もう、来い!あんたが居れば、少しは寝る時間が出来るハズなんだから!」
血走る赤い目をしたディアーナはロージアの腕を掴んだまま部屋からロージアを引っ張り出した。
「ぼ、僕は旅に出ないよ!魔王でない時はダラダラしていていいって言ったじゃないか!!」
「限度があるわ!光熱費とメシ代払え!うちにはただメシ食わせる余裕はありません!」
「どうやって払うのさ!お金なんて無いし、あったって、お金なんか誰も欲しがらないだろ!」
「払うのは情報と、あんたの成長よ!下界で人間として情報を得る、あんたが自身で考える!呼び出されました、じゃあ滅ぼします!なんて、頭の悪い魔王になるんじゃないわよ!成長しろ!」
部屋から出ると、スティーヴンとウィリア、ジャンセンが立っていた。
「旅に出るんだってね?楽しんでおいで。でも、やたら魔王としての力を使っちゃ駄目だよ?理由もなく、その力を使ったら…ディアーナに揉んで貰うからね?」
「え!う、ウソ!」
ニッコリ笑ってヒラヒラ手の平を振るジャンセンの言葉に、ロージアが青ざめる。
青ざめるロージアを他所に、ディアーナがジャンセンに尋ねた。
「師匠、それは1魔王1揉み?、1魔王1時間揉み?」
「それは、お仕置きですからね。1魔王一晩揉みでしょうか…?」
ジャンセンは楽しそうにほくそ笑み、ディアーナはガッツポーズを取る。
「よっしゃぁ!!」「よっしゃじゃないよ!馬鹿ぁ!!」
三人のやり取りを見ながら、ロージアの恋心がディアーナにある事を知るウィリアは口元を隠して笑う。
「あらあら、大変ですわね。嬉しいやら、恥ずかしいやらで。うふふ」
「レオンハルト殿は、相手が女でも嫉妬するからな…無事に旅を続けられると良いが。」
眉間にシワを寄せ、真剣な面持ちで呟くスティーヴン。
「ロージアも人間らしく戦う術を身に付ければいいのよ、剣でも魔法でも。魔王としての力を封印しろと言ってないわよ?やたらと使うなと言ってんの。それも含めて成長しろってのよ。さあ!行くわよ!!魔王さま!」
「そ、そんな!まだ心の準備がぁ!」
「知らん!」
ディアーナはロージアの腕を掴んだまま下界に降り立った。




