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魔王の兄貴分、女装して暴走中。

ライアン少年の方向性を変えたい。その相談に乗って欲しい。


そんな理由でスティーヴンはディアーナに下界に呼び出された。


ディアーナ達の夜営場所である森の付近、その場に旅装束のスティーヴンが降り立つ。


「おかーん!!助けてぇ!!」


ディアーナは、スティーヴンが現れるなり泣きついた。


「…おかんって……まぁ、それは置いといて…助けて欲しいのは、ライアン少年の事ですよね?君が勝手に暴走してライアン少年とロージア様を夫婦にするなんて決めたりするから、こんな面倒な事になるんで…」


「そんな事より!!オフィーリアが私を狙ってる!!怖い!見た目は美少女、実はケダモノのオス!どうすればいいの!!」


━━そんな事より?……私が呼び出された理由、「そんな事」なのか?━━━


スティーヴンは、足元に座り込んで両手を合わせて祈るように助けを求めるディアーナを見下ろし、大きく溜め息をはく。


「あのね、私が呼び出された理由ソレじゃないよね?」


「オフィーリアは殿下の元想い人じゃないですか!!私をフッてまで結婚しようとした!何とかして下さいよ!」


━━━ディアーナ嬢が本気で怯えている。

どんな危険な目にあっても、それすらイベント扱いで楽しんでいたディアーナ嬢が……。

……意外な弱点を知ってしまった。━━━


怯えるディアーナ嬢を見て、いい気味だ…とばかりに思わず、ほくそ笑んでしまうスティーヴンは口角の上がる口元を手の平で覆い隠す。


「ディアーナ嬢……オフィーリアが想い人だったのは、数百年前の事。私には今、ウィリアという素晴らしい妻がいるからね。……だから……もうオフィーリアの事は私には無関係だ。第一、彼女は君の夫だろう?君が自分で何とかしたまえよ。」


フィとそっぽを向くスティーヴン。口元の笑みが止まらない。


「そんなぁ!怖いんですって!おとんも諦めて食われろって言う!」


父親であるジャンセンにまで言われるなら、本当に諦めた方がいいのでは?と思ってしまう。

そして、ニヤついてしまう。


「見た目だけ、オフィーリアなんだろう?なら目をつむっていればレオンハルト殿じゃないか?ケダモノのオス?レオンハルト殿は元々ケダモノだ。」


そのケダモノと日々イチャイチャしているじゃないか。との意を込めて言う。


「そそそそそういう問題じゃなくてよ!!女の子のオフィーリアにチュウされたり胸触られたり!何かやだあ!」


スティーヴンは口の端を上げ、嘲笑を浮かべながら呟く。


「ナニ言ってる。私が触るより先にウィリアの胸を楽しみまくったくせに。女の子同士だからノーカウントパイだとか、ワケの分からん事言いやがってましたよね。……私があなたに出来る助言はひとつ。ヘタレ。ウゼェから諦めろ。です。」


スティーヴンはスッキリ晴れ晴れとした顔で、ディアーナを無視して、剣の交わる音が響く森に向かった。


「おかーん!」「しらーん!」


背後から声を掛けて来るディアーナに、背を向けたまま冷たく返事をする。ザマァミロの意を込めて。


「…そうか、オフィーリアは少女に見えているだけで、実はレオンハルト殿、そのままだったよな……声だけは変えているのか…。」


ふ、と……オフィーリアに夢中だった若い日の事を思い出す。


「キスとかしなくて良かった……。」


過ぎた遠い遠い過去を振り返り、今更ながら安堵する。

そして森の奥に進んだスティーヴンは、オフィーリアがライアン少年の背中に座っている場に出くわした。


「レオンハルト殿。……子ども相手にうっ憤を晴らすのはやめなさい。大人げない。」


「まぁ、殿下!お久しぶりです!そして、余計なお世話です!」


相変わらずの天使のように美しい少女は、剣を肩に担いで地べたに倒れた少年の背に大股を開いて座っている。

ならず者ですか…


見てはいけないものを見た気がする。


「荒れてますね…そんなに発散したいなら、さっさとディアーナ嬢連れて、宿でも探しなさいよ。」


「違う!違うのよ!私を、このオフィーリアを愛して欲しいの!」


オフィーリアは……姿は美少女に見えているだけで、変身しているワケではない。

声は、澄んだ鈴の音のような美しい少女の声に変えているみたいだが。


だから、目の前に居るのはレオンハルト殿で、彼が女言葉を使っている。


かなり前にディアーナ嬢が言っていた、オネェって謎の言葉がしっくり来るのは何故だろう。

そのオネェが、クソめんどくさい事を言っている。


「……オフィーリアになりきって…ナニやってるんですか…私にまで、オフィーリアを通す必要無いでしょう?」


と、言うかナニがあった、あんたら。

レオンハルト殿的に、もう引っ込みがつかない状態になっている様だが…。


「だって…だってよ、私とリリーは似てるのよ!」


リリー…ああ、オフィーリアの尻の下でくたばっている少年の母親か。と、スティーヴンはオフィーリアの下敷きになった少年に目をやる。


「…らしいですね、私はお会いした事無いので分かりませんが、ロージア様の妹君なのでしょう?ロージア様に似てるなら、オフィーリアにも似てるのでしょう。」


だから何だと言いたいのを堪えて淡々と意見を述べるスティーヴン。


「私とリリー!リリーとロージア!似てるならば、私とロージアも似てるでしょう!?どうして、ロージアとイチャイチャは良くて私は駄目なの!?」


あんたがしたい事は、イチャイチャを越えてるだろうが!

と脳内ツッコミをしたのちに、スティーヴンの表情が虚無状態になった。


どうでもいいわ、そんな事。を、通り越して、一切頭の片隅に置きたくもない位にアホみたいな事。


スティーヴンは無視する事にした。


オフィーリアの存在も無視する。スティーヴンはオフィーリアの尻の下でくたばっている少年の襟首を掴むと無理矢理引き上げる。


「きゃぁ!」


ライアンの身体が立たされ、背に座っていたオフィーリアが転がり落ちる。

スティーヴンは、「きゃぁ」じゃねぇよ、と思いつつも、無視を続ける。


「えーと、ライアン君生きてる?死んでる?死んでるなら、このまま帰るけど。」


スティーヴンは襟首を掴んだまま、白目をむいてるライアンと目線を合わせ、ニコリと微笑みかける。


「い、生きてまス…まだ…。」


「なら良かった。時間を無駄にしたくないから話を進めるよ。君はロージア様と結婚したいと言っているけど、君にはそんな資格無いよ?それは理解しているの?」


「な、何で!?何でだよ!!」


スティーヴンの一言でライアンの眼に生気が宿り、アホみたいに呆けていたライアンの顔が男の顔付きになった。


「やっとまともに話を出来そうだね。良かった。」


スティーヴンはライアンの襟首から手を離し、向かい合うと再び微笑みかける。


「君を子どもだと思わないよ。君を一人の男と見た上で話をしたい。……君が、自分の事を子どもだから分からないと言って逃げるならば、それでも構わない。」


ライアンは姿勢を正し、スティーヴンに向き合うと小さく頷いた。


「話をさせて下さい。」


「うん、良かったよ。ちゃんと話せる相手で。」


たった今、まともな話を出来ない二人を相手にしてきたばかりだったから。


チラリとオフィーリアに目線を向ける。

転がり落ちたまま、地べたにペタンと座り込んで口元に手を当て、こちらを見ている。

何か、あざといその仕草がウザイ。


……何か悪いモンでも拾って食ったのだろうか……やはり無視しよう。






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