4# 発酵…薄幸の美少年。
ディアーナ達は、客人として扱われる事になった。
元令嬢ディアーナの立ち居振る舞いは、その気になれば美しい。
ドレスを身に着けた少女三人を従え城内を歩くディアーナの姿は女でありながら威風堂々としており、まるで女王のようである。
城内はともかく、敷地内とはいえ城から出て歩くと、ディアーナの事を知らない輩が野次を飛ばして来たりする。
「おい、ねーちゃんら、皇帝に可愛がってもらってんのかぁ?ハッハー………あああっ!ごめんなさい!ごめんなさい!」
そんな奴はソッコー締め上げる。
とりあえず、膝をつかせてから背中を踏んで……
まぁ、だいたい泣いてごめんなさいって言われるから許してあげるけど…。
気が付くと、皇帝アゴーンが物陰から私を見ているのよね。
頬を赤らめて。きもっ。
「ディアーナ様…お城の中を回って、何をなさっているのです…?」
ビスケがおずおずと、尋ねてくる。
「私たち、早く村に帰りたいです…」
ミーナも呟く。
「今、帰ってもまた同じように拐われるかも知れないわ…今度は、ディアーナ様のように助けてくれる方が現れないかも知れない…もっと、ひどい事になるかも知れないのよ?」
オフィーリア似のリリーが二人を、諭すように言う。
「…ごめんなさいね、私も何を探しているのか自分でも分からないのよ…」
本当に分からない。だが、何か…私の心をくすぐる何かあるはず!
城を離れ、敷地内を歩いていると、離れのような建物に辿り着いた。中に入ろうと扉に手を掛ける。
「ここは!皇帝の許し無く立ち入りは出来ません!」
この城に初めて来た日に私を皇帝の所に案内した側近が、私を止めた。
「皇帝…がどうかして?」
ディアーナはニコリと笑う。
「わたくしに皇帝が許しを?この、わたくしに?…ふふっ…知らんわ!」
強引に扉を開け、ズカズカと中に入る。
何がある、この離れ。幽閉したい誰か居るの?
定番って言えば定番ね!
無理矢理退位させられた前皇帝とか!
さあ!誰!?
離れの中庭、小さな温室。
薄幸の美少年……が居た。
銀に近い、色素の薄いゆるふわな金髪の線の細い…いかにも病弱ですと、見た目だけで分かる美しい少年…。
「………部屋を間違えました。」
ディアーナは、そっと後ずさる。めんどくさい。
「ま、待って…行かないで…、その姿、聖女ディアナンネ様にそっくり…あっ…」
ほら、めんどくさいの来た!ほら、駆け寄ろうとしてよろけている!少女三人が助けに駆け寄る!
あああっめんどくさい!確信犯だよ!こーいう奴は、自身の見た目を熟知した上で、女の子はほっとけないでしょ?って行動を取るんだよ!
「ディアーナ様、ひどいです!いきなり尋ねて来て、いきなり帰るだなんて!」
少年を支えてミーナが言う。
「ごめんなさい…僕が、いきなり駆け寄ろうとしたから…驚かれたのですよね…」
いや、駆け寄られる前に帰りたかったけど。
「僕、いつも一人なんだ…話し相手になって…くれませんか…」
王子様、と呼ぶには少し弱々しいけど…田舎暮らしの少女達には初めて見る美しい少年。金髪に青い目の美少年。
そんな少年とお近づきになれて、少女達ははしゃいでいる。
「……いいわ、わたくしの名はディアーナ…。この三人はリリー、ミーナ、ビスケよ。」
「僕の名前はロージアです。」
ロージア…あなた、この部屋に来た時から私しか見てないわね。
私に何か望むのね…。うぜぇ…。
温室の外にある丸テーブルに椅子を用意し、五人で腰掛ける。
ミーナとビスケは、初めて知り合った美少年に有頂天で、村から拐われた事やこの城に連れて来られた経緯など楽しげに説明していた。
リリーは、少し警戒して話の輪には入っていない。
「じゃ、ディアーナさんは自分を月の女神だと思っている、強い女性なんだね?」
勝手に私の話をしている。その言い回し、ただの痛い勘違いメスゴリラだと思ってないか?
「ディアーナさんは、どこから来たの?この国の人ではないよね?」
私の事ばかり聞きやがる。うぜぇ。
「出身はラジェアベリアよ…」
国を出たのはもう、数百年前になるけど。
「聞いた事ない国の名前だね…」
今の国の名前は変わったかも知れない。でも、スティーヴンとウィリアの子孫は今も、あの国に居る。
彼らに何か不幸が起こる時は、分かるから。
「遠い遠い、国ですわ。」
そう、距離も…時間も…。