魔王は引きこもり状態。勇者(仮)飼育開始。
『 父上、母上、いきなり旅立つ事をお許し下さい。
俺はロージアに逢いたいんです。
許して貰えるか分からないけど、謝りたい。
ロージアの辛さを軽く考えていた事を謝りたい。
だから、俺は旅に出ます。
タスケテぇディあ ぁ ナ
探さないで下さい。』
翌朝、ライアンの部屋で頭を抱える国王夫妻がいた。
ベッドの脇にあった意味不明…いや逆に、これ以上何が起こってしまったかが分かる書き置きがあるだろうか。
「もう、ライアンの事は諦めよう…色んな意味で。」
レオンハルト国王が遠い目をして呟いた。
「そうですわね…少なくとも、この国を任す程度には収まりそうにありませんものね…。きっと、人ではなくなるのでしょう…。あの方…わたくし達の間にライアンが生まれる事すら見越してわたくし達をくっつけたのかも知れませんわね…。」
逢ったばかりの頃から、バカップル呼ばわりされ、二人は半ば強制的に夫婦になったようなものだった。
この世界の最高神によって。
「……リリー、俺の妻になった事を後悔しているのか…?」
「まさか…あなたこそ、お母様と同じ顔のわたくしを妻にして…良かったのですか…?」
「…聞くまでもない。…では、新しい後継ぎを早く作らないとな…リリー。」
主の居なくなった、ライアンの部屋でレオンハルト国王がリリーの頬に手を当て、腰を抱き寄せる。
「あなたったら…ふふっ…ここでは駄目ですよ…わたくし達の寝室に…」
「そう、あなたも、ライアンもマザコンなんで、ライアンにはロージアの顔もモロ好みなんですよね。」
ライアンのベッドに腰を下ろしたジャンセンが見上げるように、抱き合う二人を眺めていた。
「……何なんですか!あんたは!まだ、ナニか用があるんですか!?ライアンはディアーナ様が無理矢理預かったでしょーが!もう、いーでしょーよ!」
レオンハルトはリリーを抱き寄せたままワナワナと震え、大きな声を出す。
そんなレオンハルトに対し、鼻で笑ったジャンセンが指を立てる。
「ひとつ!バカップルの間には立派な男の子が生まれます。次男坊のその子が次期国王となりますね。ライアンはこの国の王族から除籍となります。二つ目、あなた、元々軍を率いて戦場を駆けていたんですよね?平和ボケし過ぎ。今の内に自衛出来る位には若者を育てといて下さいよ。ライアンがヘタレ過ぎてビックリしたわ。国の回りには、まだ時々魔獣出ますからね?じゃ、続きをどーぞ。」
言いたい事だけ言って一瞬で姿を消したジャンセン。
レオンハルトとリリーは身体を離し、衣服を整えた。
「えーと…飯でも食うか…。」
「ええ…昨日とれた芋を用意しますわ…。」
「食いたいなら自分で捕る!倒すのよ!巨大タコを!!」
「こんなもん食いたいなんて、言ってねぇ!!」
ディアーナ一行は拉致したライアン少年と共に海に来ていた。
ライアンは一人で巨大なタコを相手に奮闘中である。
最近、タコの魔獣が出るから危険だと言われていた場所に剣を持たせたライアンを放り込み、ディアーナは離れて様子を見ている。
「姉ちゃんのタコの剣って、なあに?あれはおでんよ!おでんてなぁに?もう、食べさせるしか説明のしようが無いじゃないの!!」
「だから俺に倒させるとか無いだろ!ちょっ…!タコの口どこ!黒いヒルみたいなの出て来ないし!」
レオンハルトは岩場で鍋を火にかけ、ダシを作り始めながらライアンに声を掛ける。
「巨大化した魔獣は、普通の倒し方で大丈夫だから刺したり斬ったりしとけ。あ、うまくスライスしてくれたら、刺身も食えるな!頑張ってくれライアン!」
「うがぁああ!!!」
巨大タコを相手にライアンは剣を振り回す。
「振り回すんじゃない!構えろ!狙え!魔力を注げ!この野郎って気持ちを込めるんだ!」
「この変態夫婦がぁ!!」
ライアンの剣は淡いピンク色の光を纏い、タコの身体を刺し貫いた。
「…上手く魔力を纏えたようだけど、ライアンあんた今、変態夫婦と言いやがったな…?」
笑顔のディアーナがライアンの襟首をむんずと掴む。
「そ!それは、ディアーナ姉ちゃん…言葉のあやってヤツで!」
「黙れ!鼻の穴にドングリ詰めてやろうかしらね!!」
大騒ぎするディアーナとライアンを無視して、レオンハルトは黙々とタコを切り始める。
やがて出来上がった、タコしか入ってない鍋は大不評だった。
「なあ、ディアーナ姉ちゃん」
両鼻の穴にドングリを詰められたライアンが声を掛ける。
レオンハルトは涙目になって、ヒイヒイ言いながら腹を押さえている。笑いすぎて腹が痛いようだ。
「ディアーナ姉ちゃんは、人を殺せるの?」
ライアンの質問に、ヒイヒイ言っていたレオンハルトがスッと凍り付いたように冷たい顔になる。
「まだ普通の人間を殺した事は無いわね。でも、殺せるかと尋ねられたら、必要ならば殺すつもりよ。」
「……ボーズ、その質問は…」「レオン、いいのよ。」
ライアンの言葉を遮ろうとしたレオンハルトを止め、ディアーナは真剣な顔でライアンに向き合い。
吹き出しそうなのを堪えて、先にライアンの鼻の穴からドングリを取り除いた。
そして、再びライアンに真剣な顔で向き合い
「私は女神と呼ばれているけど、慈愛に満ちた優しさの権化ではないわ。」
「うん、破壊神で、変態女神だもんな。」
「ちょっと黙って話を聞いとけ!!」
ディアーナはライアンの鼻の穴に二本指を立てて突っ込んだ。
「ふぁ、ふぁい!!グリグリひゃめて!」
「……私は自分を神だなんて思ってなくて、私は私の思ったままに動いているの。その中で、こいつを生かしといたら、この先もっと悲惨な事が起こると判断したら、容赦しないわ。」
「……そいつが、反省するかも知れなくても…?…人を殺すって…取り返しがつかない、怖いよ…。」
ライアンは自身の右腕をギュッと掴む。
「……そうよね……私も、そう思って……でも、私がモヤモヤしてぼやぼやしていると、レオンが…私のために、その罪を被ろうとするのよ。」
ライアンがレオンハルトに目を向けると、レオンハルトは顔を見られたくないのか、クルリと二人に背を向ける。
「この先、苦しむかも知れない人を救いたいから今の内にヤッておこう、と言うのは建前ね。私は自分勝手で自己チューな女の子だから、レオンが私の為に人を殺すのがイヤなのよ。自分だけ、キレイな身で居ようなんてイヤなの。」
「…………女の子………」
食い付く所、ソコかよ!
「だから、自己チューな私が人を殺すとしたら、レオンを好きな自分の為よ!……ロージアはね、人を殺す事に躊躇しないわ。だからって、それが好きってワケでも無いのよ。私はね、私達が人間のふりをして瘴気を浄化する旅をしているように、あんた達にもロージアを魔王にしない旅をして貰いたいの。……ロージアにも、もっと外の世界を見て欲しいの。」
魔王になってからと言うもの、ロージアはほぼ創造神界に居る。
引きこもり状態だ。
ディアーナ達が旅に誘っても、ディアーナのセクハラに怯えてついて来なかった。
「あと五年、少年!あんたがロージアの身長を追い越すあたり迄には、あんたを勇者(仮)位には仕上げるわよ!」
「カッコカリって何だよ!?カッコイイ勇者の別の言い方!?」
「俺が変態勇者と呼ばれるのに、お前がカッコイイなワケ無いだろう?…そうだな、勇者カッコヘタレにしとくか?」
レオンハルトの例えにピンと来たライアンが声をあげる。
「仮にって事!?…いや、あの…勇者なら、人を殺しちゃ駄目じゃない?」
「バーカ!勇者ってのは、自分で名乗るんじゃないわよ!後から回りが勝手にそう呼ぶの!あんたのパパだって、散々人を殺して、自国では勇者って言われてたんだからね。他国からは暴君と呼ばれていたけど。」
いまだに想像出来ない、今は農夫の父が、皇帝と呼ばれた時の姿。
勇者カッコ芋。駄目だ、わからん。




