33#ラリアット
「な、な、何だ!あの娘は!あり得ん!あり得ん!」
教皇は一人バルコニーから離れ、肥えた身体を揺らしながら王城の廊下を走っていた。
たかが人間の娘だと馬鹿にしていた少女が、魔を統べる者になりつつあるロージアと対等に戦っている。
「あんなもの人間ではない!人間ではないのか!おのれ…!二百年も生きて来た私が、あんな娘に倒されはせん!逃げ切ってやる!そして、力を蓄え……おお、そうか」
教皇がニィと笑う。
腹の中に、魔力を持つ少女を捕らえて居る事を思い出した。
このまま、消化して魔力を取り込んでしまえば良い!
「リリー、私の妻よ!今こそ貴女とひとつに!!魔力を持つお前を食えば私はさらに力を………ごばっ!!」
教皇の口の中から、剣の刃が生えたかのように飛び出す。
「……おい……淑女をいきなり腹の中に収めるなんざ……ディアーナ的に言ったら、ラリアットもんだぞ!!ジジイ!!」
教皇の口が裂け、そこから飛び出した光の筋は剣を持つ少女に姿を変えた。
王城の廊下に躍り出たリリー…ではなく、オフィーリアは、構えた剣を横に倒して青白い高温の焔を纏わせ、教皇の首を目掛け剣を振る。
「腕のかわりに剣で、ジジイにラリアットいきまーす!」
「お、お前みたいな小娘に殺られるワケが無い!!わ!私は…!二百年生きて…!」
「あん?たかが二百年?ジジイじゃなくてガキじゃねーか。俺は1500年は生きてる。」
オフィーリアの剣は教皇の身体の胸から上を斬り飛ばした。
「あ、首を狙ったのにズレたな。まいっか」
その場に残った胸から下の斬り口から、黒い霧と赤黒い舌のような触手が無数にわき出てイソギンチャクのようにうねり暴れ、やがてしぼむように小さくなった。
飛ばされた胸から上は、廊下の絨毯の上でブツブツと呟いている。
「あり得ん!あり得ん!お前は何だ!人間ではない!」
オフィーリアは胸から上だけになった教皇に近付き、教皇の頭を踏みつけると剣を構える。
「俺はこの世界を創った創造主の息子で、ディアーナは娘だ。そんじゃ、プチるんでさようなら~」
満面の笑みを浮かべたオフィーリアは、焔を纏わせた剣を教皇の脳天から床に縫い付ける勢いで刺す。
青白い焔は教皇の身体を焼いて早々と蒸発させてしまった。
「やれやれ…もう、リリーのふりはしなくていいだろ……何か暴れ足りない気もす……」
城に居る雑兵達が現れ、オフィーリアを取り囲む。
「きゃああ!助けて~!リリー、怖い!」
目を輝かせたオフィーリアは、広い場所を探して城内を走り回り始める。
人間の少女を食らおうと、オフィーリアの後を追う魔獣化した兵士達が一人、二人と数を増やして行く。
「森にいた時みたいに、もう、一人一人背後をとってチマチマ殺らなくていいんだよな!トンスラに刈る必要も無し!全員派手にプチっていいんだよな!やったー!わははは!」
ストレスを発散すべく、雑兵ホイホイと化したオフィーリアはたくさんの魔獣と化した兵士を引き連れて、王城の地下へと走って行った。
「まとめてプチりまぁーす!」
地下から鈴の音のような、可愛らしい声がした後、
多くの断末魔の叫びがあがった。




