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28# 囚われの女神ディアーナ。

ロージアにレオンハルト皇帝と結婚すると宣言してから数日。


バクスガハーツ帝国には特に何の動きも無く、ディアーナはジャンセンの教会のある村に居た。


レオンハルトは他に用があるからと村から離れており、ディアーナはレオンハルト先代皇帝と二人で村の様子を見て回っている。


「この村は、バクスガハーツ帝国ではないから瘴気も及んで無いのよね…土地を広げたら、何とかなるかしら…。」


「瘴気?ロージアが出す、あの黒い嫌な感じの霧か?」


先代皇帝がディアーナに尋ねる。

瘴気が発生すれば、土地や生物、人間も影響を受け魔獣化したり魔物が発生したりする。


そうはならない為に、この世にたった一人、瘴気を浄化出来る修復人と言われるレオンハルトが居る。


各国の頂点に在る者だけが存在を知っているのだが、バクスガハーツ帝国の頂点はそれを知らなかったようだ。


「そう、あなたは知らないかも知れないけど、あれが国を覆っているわ。……浄化は間に合わない…多くの人が、もう手遅れかも知れない。」


「俺の…せいか………」


「もう、数代前から伝えられてなかったのでしょう?修復人の存在を。あなただけのせいではないわ。」


ディアーナと先代皇帝の前に黒い霧が現れる。

二人は警戒し身構えた。


「ロージア!!」


不意に現れたロージアに、レオンハルト皇帝がディアーナを背に隠す。


「何だよ、ナイト気取り?…本当に腹立つ。お前もリリーも。さぁディアーナ、助けに来たよ!」


「助けにって何だ!お前はディアーナ様をどうする気だ!」


ロージアにはレオンハルト皇帝の声が耳に入っていない。

その目には、数日ぶりに目にした愛しい女の姿しか。


「ロージア!わたくしはあなたに応えてあげられないと言ったでしょう!」


「そんな風に思い込まされているんだね、可哀想なディアーナ。…君は魔力は無いけど、黒い男やリリーの影響で魔法に対する抵抗力だけは強いみたいだね。」


ディアーナの身体がフワリと宙に浮かぶ。


「きゃ…!ロージア!!やめなさい!!」


「だから、ちょっと強い魔法を使わせて貰うよ?痛く無いから我慢してね?」


ロージアは宙に浮かぶディアーナに、深い眠りを与える。

宙に浮いたまま意識を手放したディアーナは、そのままロージアの腕に落ちた。


「ああ……ああ!ディアーナ!僕のディアーナ!」


腕に抱いたディアーナに歓喜するロージアの様は病的で、レオンハルト皇帝はゾクリと肌に鳥肌が立つ。


「兄上を殺して行くつもりだったけど、今日はいいや。僕の妻を連れ帰るよ。ああ…僕の妻、ディアーナ…」


「ま、待てロージア!」


ロージアは意識を失ったディアーナを抱いたまま姿を消した。

「な、何て事を…!」


狼狽えた先代皇帝は、教会に向かって走った。






バクスガハーツ帝国の城にある豪奢な寝室、大きなベッドにディアーナは寝かせられた。


ベッドの縁に腰掛けたロージアがディアーナの寝顔を見詰め、その美しい頬や髪に手の平を何度も行き来させる。


「ロージア様、おめでとうございます。これで、奥方様はロージア様の元にお戻りになられましたな。」


「教皇…僕は今、すごく幸せだよ…でも、まだだ…。」


「奥方様と…契りを交わさないので?私なら、すぐ退散致しますが。」


ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべ教皇が言えば、ロージアは苦笑する。


「ディアーナを身も心も僕の妻にするには、ディアーナのままでないと。意識を失った状態じゃ駄目だよ。僕以外、誰も頼る人が居ないと分かって貰わないと。」


「愛がありますな…私も恋をする身、お気持ち解りますぞ。私も、愛するリリー殿とひとつになりたい…」


教皇の目が黒く落ち窪み、その奥に禍々しい獣の目が光る。喉元から下腹部に向け縦に大きく裂けた裂け目には小さな棘のように牙が生え、口のようだ。


「誰かに見られたらどうすんの、興奮して正体出さないでよ…。ま、妹のリリーは任せたよ。」


「はい、では私も妻を迎えに…」


教皇は姿を消し、寝室にはディアーナとロージアだけが残った。


「妻?よく言うよ、教皇…食べてしまうクセに。ふふ…」


ロージアはディアーナの寝顔を見詰め続け、寄り添うように隣に横たわる。


「早く君を…僕だけのものにしたい…リリーが教皇に食べられてしまえば、後は兄上を殺して…後はあの、黒い男…。」


黒い男の正体だけがロージアには分からない。

リリーが、リリアーナ皇太后から自分が奪った魔力の僅かな残滓から生れたのだとは分かったが、そんなリリーに転移魔法や幻覚魔法など使える筈がない。


だとしたら、あの底知れぬ力を持つ黒い男。

あの男から何らかの力を与えられている?


「何者……?」








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