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26#アゴの先代皇帝、今はパシリ。

「おい、茶!!」


「は、はい!ただいま!」


アゴの割れている方のレオンハルト、先代皇帝はジャンセンに言われて茶を淹れている。

生まれてすぐ、後の皇帝としてレオンハルトの名を与えられた彼は、自ら茶を淹れた事など有るわけもなく。


「…なぜ、こんな辺鄙な村の小さな教会で皇帝をしていた俺が茶を淹れなくてはならんのか…。」


レオンハルト皇帝が、淹れた茶をテーブルに置く。

ジャンセンは茶を一口飲むと、テーブルにカップを乱暴に戻した。


「まずい!まずいわ!ほんとにレオンハルトってヤツは茶のひとつもロクに淹れられやしないんだな!そんなんだから、私が出ばって抱き上げたくもないオッサンを抱き上げて娘に男を抱いたとか言われるんですよ!あーめんどくさい!」


テーブルの上に長い両足を投げ出して、苛立ちを隠さないジャンセンの脇で、先代皇帝レオンハルトは震えていた。


「な、何で俺が…こんな理不尽な目に…?」


言っちゃ何だが勝手に助けられ、茶を淹れさせられ文句を言われて…名前が理由で、ろくでもないとか言われても。

俺だって好きで抱き上げられたんじゃないわ!


「陛下、耐えて下さい!創造主様は……この世の誰より力のあるお方です…。そして…とても我が儘でめんどくさがりです。どうしようもない位に。」


レオンハルト皇帝を慰めるように傍らに来たリリーの目は半分死んだようだった。


「理由なんて、求めるだけ無駄です。思うがままに動いているだけですから。」


フフフ…と力無く笑い、リリーはレオンハルトの肩をポンポンと叩く。



「……今さら言うのも何だが……ディアーナ嬢は本当に神の娘だったのだな…本人は神では無いと言っているが…。」


茶の後片付けをしながらレオンハルト皇帝がリリーに話し掛ける。


無意識の内に、理不尽なところ親子ソックリだわと渇いた笑いと共に呟いてしまった。



「ええ…でもディアーナ様には魔力がございません。だから、魔力の強さで相手を測るロージアには、ディアーナ様は普通の人間に見えているのでしょう。……愚かな……兄です。」


「……兄……になるのか……」


レオンハルト皇帝とロージアは同じ母から生まれた兄弟だ。

そしてロージアとリリーは同じ人の持つ魔力を分けて生み出された兄妹だと。


「母上の魔力から生まれた…か…。母上に魔力があるなんて…俺は知らなかった…」


レオンハルトはチラリとリリーに目をやる。


見れば見る程、リリーは若かりし日の母に似ている。

思えばロージアも…。


「魔力を持つという事は…今回のように余計な心配を掛ける事になりかねないとリリアーナ様は思っておられました。陛下に…心配をお掛けしたくないと…。リリアーナ様はいつも…。」


リリーの目から涙が一粒落ちる。


「リリー…?」

「す、すみません…リリアーナ様の陛下を想うお気持ちが、私の中に残っているのです……本当に無事で……無事で良かった…。」


レオンハルト皇帝はポロポロと涙を流し始めたリリーの顔に手の平を当て、親指で涙を拭う。


「そんな…母上の顔で…泣かれたら…俺はどうしたら良いか分からぬ…だから、泣かないでくれ…。」



「そこのバカップル。乳繰り合ってる暇があったら村に行ってガキどもの様子を見て来て下さいよ。無理やり城から村に戻したミンナとかバスケとかいうバカ女達が大人しくしているかもね。」


ミンナとバスケ?それはミーナとビスケの事かしら…?と口には出さずにリリーは思う。涙は引っ込んだ。


またバカップルと呼ばれてしまった…あの姿形どころか、心まで真っ黒な男は、俺とリリーをカップル扱いせずにいられんのか?と口には出せずにレオンハルト皇帝は思う。


この世を創った神の一族、何か色々とめんどくさい。


二人は口には出さずに思考をシンクロさせていた。





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