22# 抱かれた男たち。
「ただいま、姫さん」
ジャンセンがレオンハルト皇帝を抱き上げたまま、村の教会に転移した。
「お帰りなさい!師匠~!ちょ、姫を抱いたヒーロージャンセン!久しぶりにヤバい!いい!たまらん!どっか舐めていい!?」
「「いいワケあるか!」」
ジャンセンとオフィーリアが声を合わせる。
ジャンセンに抱き上げられたままのレオンハルト皇帝は訳が分からず無言のまま、変なテンションのディアーナと目が合った。
「ねぇ、アゴ皇帝。ジャンセンに抱かれて、どうでした?」
「ディアーナ…俺の事もジャンセンに抱かれたとか言うが、あれは抱きかかえられただけで、抱かれてはいないからな!」
オフィーリアが口を挟み、ディアーナと睨み合う。
「麗しの師匠に抱きかかえられたら、それはもう抱かれたも同然だと私は断固主張する!」
「そんな主張は却下だ!麗しのって、親父だろうが!」
皇帝は、ディアーナと言い争う少女にハッとする。
昨夜、牢に現れたリリーに似た美少女。
本当に居た…。夢では無かったのか…。
「うがはっ…!!」
皇帝はジャンセンの腕から、いきなり床に落とされた。
ディアーナ達に気を取られて無防備だった為に腰を強打し、床の上で悶絶する。
「うおぉお…!こ、腰が…!」「陛下!陛下!よくぞご無事で!」
いや、無事ではない…腰が悲鳴をあげている…。
「ヒューバート…?お前まで、こんな所に…」
「こんな所で悪かったですね。あなた、重いんですよ。」
皇帝の言葉を遮って、椅子に腰掛け足を組んだジャンセンがあからさまに面倒臭そうな顔をする。
号泣するヒューバートに身体を支えられながら、皇帝は改めて部屋の中を見回す。
壁も床も飾り気の無い板張りの質素な部屋に4~5人が食事を取れる位のテーブルがあり、そこに肘をついて椅子に座る黒髪の男。
ディアーナ嬢と、リリー似の口の悪い少女がテーブルの前におり……
部屋の奥にあるソファーには、リリーが腰掛けていた。
リリーはソファーから立ち上がると、深々と頭を下げる。
「レオンハルト陛下……ご無事で何よりです…。」
「は……はうえ……?」
ソファーから立ち上がる際の、右側に僅かに身体が傾く微妙なクセが母と同じだった。
「いいえ…私は、ディアナンネ…。この国の皆様の信仰心から生まれました。…皇太后のリリアーナ様の魔力をいただいたので、この姿になりました…。申し訳ございません…。」
「いや、そなたが謝る事では…。」
「そこの、二組のバカップル。話が進まない。乳繰り合うのは全て終わってからにしろ。」
皇帝がジャンセンの方を見る。視線だけで尋ねる。バカップルって誰?と。
「あそこの馬鹿娘二人と、お前らだ。」
ジャンセンは面倒臭そうにアゴでディアーナ達を指し、その後に皇帝と目を合わせた。
お前ら?俺と…………リリー!?
「何を言ってるんだ!助けて貰っといて言うのも何だが、あんたは一体何者なんだ!いきなり現れ俺を救いだし、ロージアの元まで簡単に近付く!魔力が強いだけの人間に、あんな事出来る訳がない!」
皇帝は、もう見ないふり、気付かないふりをするのが嫌だった。
ロージアに抱いた疑問を、危ういものに近寄りたくないと口に出さずに飲み込んで、気付かないふりをしていた。
その結果が、陥れられて処刑。
今この場で生きていられるのは、本来なら無かった奇跡だ。
「お前だって、ロージアと同じで人間ではないのだろう!!…ぐはあっ!!」
皇帝は言葉を遮られるように、いきなりディアーナにアイアンクローをかまされた。
「黙れ、アゴ。このヘタレが。助けて貰っといて偉そうに何だ。」
「ディアーナっ…様っ…!?」
「人間でない?この部屋に人間は、お前とジジイしかおらんわ!アゴ、お前を抱いた男は、わたくしの父であり、この世を創った唯一神だ!この世界の頂点で誰より偉そう…いや、偉い!お前はわたくしの父であり、唯一神に抱かれた……!」
「姫さん。俺が気持ち悪い。やめて。抱いてないから。それに、さりげなく偉そうって言ったよな?」
青ざめたジャンセンが、ディアーナの口を背後から塞いだ。
アイアンクローから解放された皇帝の側に行ったオフィーリアは、補足するように説明を続ける。
「レオンハルト皇帝、お前の先祖が会った聖女がディアーナ本人だ。ああ見えて、もう数百年生きてるからな…で、暴れ回ったディアーナを止めた勇者レオンハルトが俺で……くそう!お前の先祖、何でディアーナの名前を間違えて後世に伝えたんだよ!!お前ら一族のせいで俺はなぁ!」
「黙れ!キリが無いからやめろ!馬鹿息子!話が進まないだろうが!」
ジャンセンが苛立ちからの威圧的オーラを放出する。
「いい加減、作戦会議始めるぞ!議題、私が新しいオモチャをゲットする件について!」
その場に居た全員の視線がジャンセンに集中する。
━━━はい?ナニそのアホみたいな議題━━━