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19# この感情の名は…。

「どうして、ロージア様に会いに行ったら駄目なんですか!リリーさん!」

「きっと、寂しがってるわ!ロージア様!」


オフィーリアをリリーだと思い、詰め寄るミーナとビスケにオフィーリア…いや、レオンハルトは苛立ちを隠せない。


━━こいつら、俺をパシり扱いしたクソガキどもの姉貴だよな?弟達のツラより、得体の知れないガキのツラ見る方が優先か?恋は盲目っつーが、リリーが俺と入れ替わっている事すら気付いてねぇ。……リリーとディアーナが居なきゃ、生きていられたかすら、怪しいのにな━━


「あなた達の命を守る為です!あんな得体の知れない小僧より、あなた達の身を案じてくれている弟の心配でもしたらどうなのよ!どっちにしろクソガキだけど!」


半ばキレ気味に言ってしまったオフィーリアは、二人を睨みつける。

いつも優しかったリリーの豹変ぶりに、二人は固まってしまった。


「ディアーナに何かあったら、あんな男にうつつを抜かしている、お前達を犠牲にしてでも助けに行くからな!俺は!分かったら大人しくしとけ!」


「……はい、リリーお姉さま……」

「勇ましい…リリーお姉さま…」


オフィーリアは唇の端を引き攣らせた。

何か…あれ?別の扉…開かせた…?






ロージアは教会の地下に来ていた。


目の前には、憔悴しきって動けなくなった皇帝レオンハルトが居る。


「兄上…僕の為に役に立って下さい。僕が皇帝になり、ディアーナを妻にする為には、兄上が必要なんです…。」


やつれて、まともに声を出せなくなったレオンハルト皇帝が呟く。


「今…気付いた……お前……と、リリー……母上に…似ている……」


「どうでもいいよ!そんな事は!僕にはディアーナが必要なんだ!兄上なんか…!兄上なんかに渡さない!兄上なんか死んじゃえよ!」


ロージアが大きな声を上げる。

その表情は、レオンハルト皇帝がこの教会の地下に捕らえられた時の、ディアーナすらも嘲り笑っていたロージアとは違い過ぎていた。


ディアーナが必要だと言ったロージアは、彼女をディアナンネの材料として必要だと言ったのではないと、その必死さから分かる。


「……まさか…お前……ディアーナ様を……愛した…?」


レオンハルト皇帝の言葉に、過剰な位に反応したロージアは、真っ赤になった顔で涙を流していた。


「愛?愛したって何だよ!…キライだ…!キライだよ、兄上も、この世界も!すべて壊してやりたい…!でも、ディアーナだけは…壊れないまま、僕のじゃなきゃ嫌なんだ…!」


ロージアは、なりそこないのディアナンネ達に縋り付かれたままのレオンハルト皇帝に背を向ける。



「兄上には、最後の役割を与えてあげる…。」




地下を出て行くロージアに付き従う教皇と、その教皇の付き人をしている司祭。


地下を出た所で、司祭が口を開いた。


「私も一度だけ見たのですが、あのディアーナとかいう娘…まさしくディアナンネ様になるために生まれたような肉体をしておりますな!これでディアナンネ様が完成すれば、この国は我々の物、それを足掛かりにロージア様が世界の王となる日も…いや、神になる日も近い!」


「……は?…お前…何て言ったの…?」


先頭を歩いていたロージアが立ち止まり振り返る。

全身から殺気を放出し、黒い霧で出来た触手のような物を歩いていた廊下いっぱいに張り巡らせる。


それは、イバラで出来た檻のように硬質化して多くの鋭い棘を生やし、司祭の全身を纏うと、刺さる寸前で止まった。


「お、お許し下さい…!め、目に刺さ…っ」


棘は司祭の眼球の間際までも伸びており、まばたきも出来なくなった司祭が許しを請う。


「ロージア様!こやつは、知らなかったのです、あなた様がディアーナ嬢に特別な感情を抱いていることを!」


教皇が司祭を庇うような口添えをするが、ロージアの耳には届いていない。


「ディアナンネになる為の肉体ってナニ?ディアーナは要らなくて、ディアーナの外側だけあればいいって言うの?僕のディアーナが消えてしまえばいいって言うんだね、お前。」


笑顔のロージアが目を大きく開いた。いつもは澄んだ青の瞳が血のように紅く染まり、ギラリと光る。


「僕が生まれてから今日までで、一番許せないと思ったよ!何でかなぁ!」


司祭の全身を覆ったイバラの棘は、司祭の全身を激しく刺し貫き、そのまま質量を増やした多くの棘は太い杭に変わり、司祭の全身は弾け飛ぶように無くなった。


教皇は、初めて見るロージアの魔王としての強い魔力と負の感情に畏れ、感動し、震えた。


「おおお…何と…強く美しい…ロージア様、私は…ディアーナ様がロージア様の奥方になる事に賛成致します…。ディアーナ様は、ディアーナ様のままでディアナンネ様の生まれ変わりだという事にすれば良いのです!」


「ディアナンネの生まれ変わり…ディアナンネの生まれ変わりとして、ディアーナが僕の妻に…?」


「ええ!反対する者はおりますまい!ディアナンネ様の御子の美しいロージア様の奥方に、ディアナンネ様の生まれ変わりの美しい奥方!多くの国民が祝福するでしょう!」


「いいね、それ…教皇、お前最高だよ…でも、その前に…始末しなきゃならない事案があるんだよね。」


廊下中に張り巡らせた黒い楔を霧に変え、すべて無くしてしまうとロージアと教皇は何事も無かったかのように地下を後にした。


赤黒い血と肉の欠片だけが、廊下に置き去りにされたままで。




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