16#浄化魔法ねちねち版。
ロージアが去ったディアーナの寝室で、三人は大きなベッドに輪になるように座っている。
オフィーリアがディアーナの髪に触れ、指先に絡ませ遊びながら尋ねた。
「なあ、あいつ帰り際に魔法使ったぞ?ディアーナ気付いてたか?」
「魔法?何の?」
ネグリジェから普段着ているドレスに着替えたディアーナは、髪を遊ぶオフィーリアの方を見る。
「簡単に言えば、忘れる魔法?今夜の記憶を消したかったようだな…ディアーナは俺と繋がっているから、強い抗魔体質だし魔法の影響受けにくいんだが…まぁ、分からないよな、魔力の無い普通の人間だと思われていれば。」
「こうま?子馬体質?パカパカ?」
「……ディアーナは、抗菌コートされてるからバイ菌が付きにくい。」
分かりやすく言い直してくれたが、魔力をバイ菌扱い。
「なるほどね、でも、それは知られない方がいいから今夜の事は魔法が効いて、忘れた事にしておくわよ。…所で、私達いつまで三人でここにいればいいの?」
「分かんないけど、親父がリターン魔法…っ!?」
「お帰りなさい、オフィーリア。そして久しぶり、姫さん。何十年ぶりかね?」
オフィーリアの口から出た単語が引き金となり、三人はいきなりジャンセンの居る教会に転移させられた。
「きゃあ!師匠~!!師匠!はぁはぁ!36年と185日ぶりのナマ師匠!」
「……相変わらず気持ち悪いな、姫さんは…」
ジャンセンは顔をしかめて「うわぁ…」と呟く。
そんなジャンセンの姿を見るなり興奮して飛び付きたがるディアーナを羽交い締めして止めるオフィーリア。
「何で親父には興味無いのに、ジャンセンはツボなんだよ!同一人物だろ!抱き付くなら俺にしろよ!」
リリーはそのおかしな光景を見ながら困り顔をする。
そもそも自分と同じ姿で男言葉を喋るオフィーリアが、何だか気持ち悪い。
「神父様…初めてこの村に来て、お見かけした時から普通の人間ではないと感じていました。…貴方は…一体…そして、ディアーナ様や、私そっくりなオフィーリアさんは…」
「あのねリリー、私は何度も言ってるけど思い込みでも妄想でもなく、月の女神と呼ばれているわ。元々は月の聖女と呼ばれていたのよ。数百年前から。」
ディアーナはクスリと笑ってリリーの両手を握る。
「あなたソックリなオフィーリアは、普段は男性で私の夫なのだけど、創造神の御子なのよ。不老不死で、千年以上前からこの世界を守り続けているわ…。」
ディアーナに手を握られたリリーは、ビクッと身を跳ねさせる。
「そんな…そんな恐れ多い…!あなた方は、本当に神だと…」
「いいえ、神と呼ばれるのは正確にはジャンセンだけね…この村で神父をしていたジャンセンは私達の父で、この世界を造った創造主なのよ。この世の誰にも触れる事すら許されない、頂点の存在よ。」
その頂点を振り回すディアーナなのだが。
リリーはディアーナに手を握られたまま気を失った。
事が大き過ぎて処理しきれなかったようだ。
「あらあら…リリーの話しも聞きたかったのに…目を覚ますまで待つしかないわね。」
ソファにリリーを寝かせ、ため息をつくディアーナにジャンセンが鼻を押さえる。
「姫さん…臭い。すっげカビ臭い。めっちゃ瘴気浴びて来たろ?」
「えっ!!瘴気ってカビ!?カビ臭いの!?」
ディアーナの抗菌コートは防カビ効果が無いようだ。
ディアーナは自分の身体のにおいを嗅ぎ出す。
「浄化が必要だな、くせぇもん。」
「浄化?浄化って…レオンがバーンてやるやつ?」
「そう、浄化出来るのは、この世にレオンしか居ないしな。レオン、ディアーナの浄化をお願いします。奥の寝室を使って良いので。」
「え?」
ディアーナはオフィーリアから姿を戻したレオンハルトに抱き上げられた。
「バーンなんて一瞬で終わらせない。ゆっくり時間を掛けてアイツのニオイが消えるまで、隅々まで浄化しよう。たっぷりと愛してあげるよ、俺のディアーナ。」
「ちょっ!おとんの、師匠の居る部屋の隣で!?ままま待って!無理!無理!声とか!何かいろいろ出る!無理!助けて師匠!」
ジャンセンはまずい茶をすすりながら鼻で笑う。
「ハッ…呼んで下さいよ、おトン、出番でやんす!と。最中でも飛び込んで助けてあげますよ。」
う、恨んでるの!?私が、そんな救助要請した事を!
抱き上げられたままディアーナは寝室に運ばれた。
そして、レオンハルトの嫉妬もあってか、激しく熱い夜を過ごしたディアーナはベッドの上でグッタリとした朝を迎えた。
「ゴリラ並に体力のあるディアーナが足腰立たないとは…やりますねぇレオン。」
シレッと言ってのけるジャンセンを睨んでディアーナが声を上げる。
「誰のせいだと思ってるのよ!師匠!!」
「貴女のせいですよ?」
ニッコリ黒い笑顔を見せるジャンセン。
もう、何も言えなくなったディアーナはガックリ項垂れた。