15# 駄々をこねるジャンセンと馬鹿娘。
ミーナとビスケが拐われた村。
この辺鄙な村の教会の一室で、ジャンセンは茶を飲んでいた。
傍らにはオフィーリア姿のレオンハルトが居て、茶を淹れている。
「まずい…。」
「毎回毎回すみませんね!茶も飯も不味くて!」
ジャンセンの呟きに、苛立った顔のオフィーリアが茶菓子の入った皿を乱暴にテーブルに置いた。
「…ナニを言ってるんです?ディアーナから救助要請が来たというのに。」
「何だって!?親父、急いで助けに行ってくれよ!」
覇王と呼ばれる程に強いハズのディアーナが助けを求める等、余程の事だとオフィーリアは青ざめる。
「……行きたくない。」
「…は?」
「い~き~た~く~な~い~!」
ジャンセンは、テーブルをバンバン叩いて駄々をこね始めた。
「ガキか!!あんたは!娘の危機なんだろう!?」
「……お父様、助けて…で、なくても…師匠助けてでも…助けに行くつもりでしたよ……あの馬鹿娘、何て言いやがったと思います…?」
「さ、さぁ…?」
オフィーリアは目を逸らした。
昔から、そうだよね…スゲー危機に瀕していても、その状況を楽しんじゃうよね…。
俺の奥さん、馬鹿だから……。いや、あんたの娘でもあるしな…。
「言うに事欠いて、おトン!出番でやんす!……誰が助けに行く気になります?…夫でもあり、兄である…あなたの教育が、なってないんじゃないんですか?」
「す、すみませんね…でも、あなたの娘でもあるワケで…」
妻が救助を求めて来て、父であり、この世の最高神に俺が説教されるとか…どういう状況?とオフィーリアは混乱する。
「めんどくさい、レオン…いや、リリー貴女が助けに行きなさい。」
「レオンハルトでなく、リリーで…?」
「ええ、リリーで。そしてレオン…くれぐれも…」
ジャンセンは満面の笑みを浮かべながら、手を振る。
「くれぐれも…相手をプチしないように。もし、怒りに身を任せて相手を殺してしまったら……髪の毛だけでなく、あなたの下の毛も永久に生えなくしてやりますよ……」
レオン、いやオフィーリアは震え上がった。
親父は、やると言ったら必ずやる。
「行ってらっしゃい、後から帰れるようにリターン魔法掛けときますね。」
リターン魔法?なにソレ…考えた瞬間、オフィーリアは転移させられた。
「ディアーナ!なんで君は大人しくならないのさ!」
「大人しく出来るか!変態小僧!」
ベッドの上で、もつれ合いながら攻防を繰り広げる二人。
ロージアの手がディアーナのネグリジェの裾を上げ、脚を撫でる。
「何て…キレイな肌…ディアーナ…」
「私がキレイなのは当たり前だな!つか、私の肌に触れていいのはレオンだけだから触るんじゃない!」
「兄上なんかに渡さない!」「お前の兄上じゃないわ!」
このままでは埒が明かないとロージアがディアーナに身体の自由を奪う強い魔法を使おうと魔力を集め始める。
「僕は君を抱く!ディアーナを僕だけのものにするんだ!」
「僕だけの?…冗談はやめてよ…私だけのディアーナに。」
大きなベッドの上、ディアーナをロージアから奪い、抱きかかえるようにしてオフィーリアは現れた。
「…オフィ…」
ジャンセンではなく、オフィーリアが現れた事に驚いたディアーナが名を呼ぼうとするより早く、ザワザワと怒りをあらわにしたロージアが名を呼んだ。
「やっぱりお前か!!気持ち悪い女だと思っていたよ!リリー!!……この化け物!!」
オフィーリアとディアーナは意味が分からず動きが止まっている。
ロージアはオフィーリアから距離をとって、ベッドから飛び降りた。
「…邪魔しやがって…お前の思い通りになんか、ならないからな!…いつか、消してやる…覚えてろよ!」
ロージアは、忌々しいものを見る目をオフィーリアに向け、捨て台詞と共に転移魔法により消えた。
しばらく呆然としていたディアーナ達だったが、やがて互いの顔を見て我にかえった。
ベッドの上で、オフィーリアに抱きかかえられたままのディアーナは、オフィーリアの目を見て美しい笑みを浮かべる。
「レオン…ありがとう助かったわ…逢いたかった…」
「ディアーナ…俺も…逢いたかった…無事で良かった…」
ディアーナはオフィーリアの首に腕を回し、オフィーリアもディアーナの背に腕を回して、少女二人が抱き合う。
「…逢いたかったのよ…レオン…ディアナンネについて、何か言い残す事はありますか?」
オフィーリアの顔から血の気が引く。首に回されたディアーナの手は、逃がすまいとガッチリとホールドされている。
オフィーリアの、ディアーナを抱いた手が小刻みに震え出した。
「わっ…私…レオンじゃないので…分かりませんわ…」
ベッドの上、抱き合う二人の美少女達は、一人は顔が青ざめ、一人は鬼のような形相のまま笑っている。
「あらあら…ならば私が脳髄揺さぶって、思い出させてあげましょう…か…」
「ディアーナ様…!ご無事ですか!」
寝室の扉を開けて、いきなりリリーが飛び込んで来た。
「無事です!私オフィーリア!来てくれてありがとう!はじめましてリリー!」
「え!?私!?」
涙目になったオフィーリアは、今だ!とばかりにディアーナの腕から逃れ、驚いているリリーの後ろに姿を隠す。
「あら、リリー助けに来てくれたの?…貴女も、普通の人じゃないわよね…?教えてくれない?貴女の事…。」
ディアーナの問いかけに、リリーは静かに頷いた。
「レオン…さっきの話しは…また今度にしましょう?先に片付けなきゃならない事がいっぱいあるみたいだから…」
「そ、そのまま忘れてくれる事を祈ります…」
オフィーリアはリリーの背後で土下座をしていた。