13# アイアンクロー。
「それにしても、どこ行ったのかしらねアゴ割れ皇帝。側近ジジイも心配してるのにね。」
「……さあ…僕には分からないよ…それより、なぜこんな事になっているのかは、もっと分からないんだけど…」
城の中庭にあるベンチの前。
ロージアは転移魔法でこの場に現れた瞬間、ディアーナに前頭部を鷲づかみされた。
鷲づかみされた頭部に、ギリギリとディアーナの指が食い込む。
かなり、痛い。
「何だ、分からない事だらけじゃない。聖女の御子だって言うから頭いいのかと思ったら、そうでもないのね。…アイアンクローごときで涙目になってるし。」
ひどい言い掛りをつけてロージアを解放したディアーナはベンチに腰掛ける。
ロージアは、頭を押さえながらベンチの前でうずくまってしまった。
「ひどい女だな!君は!アイアンクロー?!ナニそれ!バッカじゃないの!?急に現れて驚かせるつもりが、逆にビックリだよ!」
「…転移魔法知ってるのに驚けだと?…きゃっ!いきなり現れるなんて…驚いたわ、あなたってお茶目さんね!……これでいい?」
ディアーナが、やる気の無い微妙な小芝居をするとロージアが震えながら声を上げた。
「ブドウを口に含みながら、やる気なさげに言うなんて!またブドウ!?何なの君は!しかも側近ジジイって…ヒューバートの事だよね!?君は本当に兄上の事、心配してるの!?」
ロージアの言葉にディアーナは、目を大きく開いて驚愕の表情を見せた。
「側近ジジイの名前、そんなんだったの!?」
「驚く所が、ソコとか信じられないよ!!」
ロージアは地面に座ったままベンチに突伏してゼェゼェ荒い呼吸を繰り返している。かなり、お疲れのようだ。
「これ位で疲れているようじゃ、まだまだね…ま、客人のわたくしを放置して消えた皇帝にはムカつくけど、弟のあんたをからかえたから、まぁいいわよ。」
偉そうな台詞を吐いて、ベンチで足を組んでブドウを食べ…いや、頬に詰め込むディアーナに苛ついたロージアがボソッと呟く。
「兄上には…仲の良い女性が何人も居たからね……その人達の所にでも行ってるんじゃない?…僕だったら…兄上みたいに、大事な人を悲しませるような事はしないのにね…」
ロージアがチラッとディアーナを見ると「はあ?ナニ言ってんだ?」と言わんばかりの顔をしている。
「…もし仮に、わたくしの大事な人…レオンハルトが、わたくしを裏切って他の女性とよろしくやっていたとして…、それが悲しい事だなんて思わないわよ?」
「……?悲しくないの?」
「悲しむ暇があったら、レオンの顎の骨を砕いてやって、三回はその身をバーンと砕け散らせてやるわ!!」
「兄上を、殺す気なの!?」
話し噛み合って無いじゃん?と思ったディアーナが、あっ!と気付いた顔をする。
そうか、私、普通にレオンの話ししていたけど、…同名かぁ…。
ロージアは、ディアーナとレオンハルト皇帝の仲を疑っているようだ。
あー………ま、いっか…訂正するのも面倒だし。
訂正したら、したで、今度はロージアがウザくなりそうだ。
「僕は、君を怒らせるような事はしない…僕が皇帝になったら、僕の妻の君には、そんな恐ろしい事させな…あれ…?何か僕のイメージと違う…。」
ロージアは、自分なら君を悲しませないと誓うプロポーズをしたつもりだったハズが、尻に敷かれる事を前提に許しを請うてるようになっている事に焦る。
「何で、わたくしが妻になってんのか分からないけど…ロージアは結婚しちゃ駄目よ。若く美しく、でも病気持ちで弱っちょろいロージア皇帝には、見目麗しい男性の従者が常に側にいるようにするんだから。」
「……ひどい言い様だけど、僕を何だと思ってんの?それに…男の従者が側に居たら、何で結婚出来ないの…?」
「あんたは、そいつとデキテルっぽい雰囲気を常にかもし出してなきゃならないからよ。」
ロージアは頭を押さえる。アイアンクローは痛かった。
だが、今、もっと頭を痛くする原因が目の前に居る。
「なぜ…僕が男と出来てるっぽい雰囲気出してなきゃいけないの…?」
「人の心を掌握するには、それ位のインパクトがないとねぇ…まぁ、大昔に仲が良かった腐った友達がね、好きだったのよ。そーゆーの」
「腐った友達……?屍鬼の知り合いでもいたの…」
ディアーナの話しが理解出来ないロージアは、考える事も言い返す事もやめた。
「……思った以上に、頭のおかしい女だよ……こいつは…。自分を女神だと思い込んでる以上に……。」
ディアーナに聞こえないようにロージアが呟いた。