12# 月の女神なんて居やしない。
「兄上聞いて聞いて!僕ね!ディアーナにね!皇帝になればって言われたの!」
大教会の地下深く。
床一面に大きな魔方陣が描かれた巨大なホールがある。
レオンハルト皇帝はその場に捕らわれており、ディアナンネのなりそこないの少女達に群がられたまま身動きが取れなくなっていた。
「僕ね、今、悩んでるんだぁ…ディアーナを使ってディアナンネ様を造ろうか…それとも皇帝になって、ディアーナを妻にしようか!兄上、ディアーナの事を好きだよね?兄上の好きなディアーナを僕が哭かせてみたいなぁ!あはは!どんな風に乱れるのかな!」
興奮気味に声を上げ笑うロージアに、憔悴したレオンハルト皇帝が呟く。
「やめろ…あの方は…そのように扱って良い方ではない…月の女神なんだ…」
ロージアの美しい顔が嘲りを含んで醜く歪む。
「月の女神?バッカじゃない?強いだけの、ただの勘違い女だよ!女神があんな口悪くて乱暴者なワケ無いじゃん!それにね、あの子強いけど魔力一切無いしね!」
レオンハルト皇帝に群がっていた一人の少女が、レオンハルト皇帝に近付いたロージアに縋り付こうと手をのばす。
「触るな!汚い!」
ロージアは少女を一瞬で消し炭にした。
「ロージア!!やめろ!」
「何だよ…言っとくけど、このディアナンネのなりそこない達は、元に戻らないよ?消し炭にしてやるのも優しさじゃない?」
人間でない事は、生まれた時から知っていた。
彼の存在を神秘だと感じる者が多い中、彼を禍々しい者だと感じ、災いが大きくなる前に、と命を狙った者たちも少なからず居た。
すべて首だけになったのだが…。
「お前……何者なんだ……?」
ロージアに意見出来る者が居なくなり、レオンハルト皇帝も、ずっと胸にしまい込んで無理矢理考えないようにしていた疑問を改めて投げ掛ける。
ロージアは少女のように美しい顔を歪ませ笑う。
「僕は、聖女ディアナンネの御子で、次期バクスガハーツ帝国皇帝、ロージアさ…」
「ああああ!もおおお!めんどくさい!」
暗い森の中を、金髪に翡翠の目をした美しい少女が、複数の男達に追われていた。
少女の口からは、「きゃー」だとか、「助けて!」なんて言葉は出ない。
「めんどくさい!あーめんどくさい!くそ親父死ね!」
オフィーリアは、まとまって追って来た男達をまいて姿を隠す。
男達が手分けしてオフィーリアを探し始めると、オフィーリアは一人ずつ背後を取る。
「まず、一人目…こんばんは、おじ様…ねぇ、おじ様は、私を捕らえてどうなさりたいの?」
背後から剣の刃を喉仏に当て、耳元で囁く。
「し、城に連れてって…皇帝に見せ…皇帝が寵姫にすれば…俺の手柄に…」
「はい!ただの馬鹿!よって特別免罪!」
オフィーリアは剣を男の頭部に走らせ、髪型をトンスラにすると、泡を吹いて気絶した男を解放した。
二人目の男に忍び寄るオフィーリア。
「二人目…おじ様、あなたは私をどうなさりたいの?嘘ついても分かりますからね?」
オフィーリアは背後から、剣の刃を男の頚動脈に当て尋ねる。
「あら、聞くまでも無いわね…」
男の口と、眼窩から黒い巨大な蛭のようなモノがズルリとはみ出す。オフィーリアは剣を振り上げ、男の顔面を正面から貫いた。
「はぁい、魔獣化~!プチりまぁす!」
刺し貫いた剣に青白い高温の炎を纏わせると、男を一瞬で蒸発させてしまう。
「イチイチイチイチ!一人一人チマチマチマチマ!めんどくせぇ!!あーくそ、この森ごと燃やしてやろうかしら!」
オフィーリアはキレかけていた。
もう魔物や魔獣でなくても、この美しい俺を拐おうとしているだけで万死に値すると思う!
全員プチっサクっと行きたい!
「ディアナンネ…様…」
足元で気絶している、トンスラにするだけで許した男がうなされるように呟く。
呼ばれた名前に、だらだら冷や汗をかいたオフィーリアは小さく頷く。
「うん、頑張る…お父様からディアーナに、レオンは頑張ったから叱らないでやってと言って貰わないと…。」
オフィーリアは三人目を探して森に戻って行った。
「うふふ…出来れば、お会いするのは魔獣さんがいいわ…会話も無く即プチ出来ますもの…うふふ…。」
この晩から、森には頭を変な髪型に刈る恐ろしい美少女が出ると噂が立った。




