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9# スティーヴン求む。

「この国はバクスガハーツ帝国との戦争に敗け、敗戦国となりました…。この村はバクスガハーツ帝国に近く、侵攻して来た兵士達は無法者となり…村の少女達が拐われました…。あの少年達の姉や知人も拐われたのです…何の力も無い私は…見ている事しか出来なかった…。」


「はぁ…そうですか…」


すごく冷めた目で見た上に、無感情な返事をしてしまった。


すごく苦しげに、辛そうに、悲しそうに…芝居してんなぁ親父…。

もう、本気で助けようと思ったら指一本動かさずに無法者全員消し去る事も出来るクセに…。


まぁ、助ける気なんか更々無いんだろうな。


そもそも何で、こんな村に居るんだ?親父は。


「レオンハルト殿には、しばらく村に滞在して戴きたいのです。用心棒として…?そして、雑用……」


「神父様、今、最後に聞こえたソレは勘弁して下さい。俺、はぐれた妻を探さないと。かわいそうだから…。」


どこで暴れ回って災いの種を撒き散らしてるか分からない。

そんな妻の被害に遭った誰かが、かわいそうだから。


「……それも含めて、レオンハルト殿には此処に居て貰わないと…私が困るのです。」


……親父とは気付かずに、初めてジャンセンに逢った時の事を思い出した。


考えが読めなくて怖いんだよな…その、薄い笑い顔…。


「大丈夫ですよ、慌てなくとも、無事に見つかります…貴方の奥様には聖女ディアナンネ様がついておりますから。」


「はぁ!?ディアナンネ!?誰それ!」


胸の前で手を組んで、祈る仕草をするジャンセンの口から出た名前に吹き出しそうになる。聖女…ディアーナでなく、ディアナンネ?


「ええ…ディアナンネ様です。この教会もディアナンネ様を奉った場所です。そして、聖女の名を今に伝えたのは聖女と共に居た勇者レオンハルトらしいですよ。」


え?……ちょっと、冷や汗が止まらない…。それ、俺か…?俺が…聖女ディアナンネを作ってしまった…のか?

記憶に無いけど…その、変な名前…うわぁ…。

それを知ったディアーナの怒りはいかほどか…怖い…。


「……しばらく、村に居ます…。」

ほとぼりが冷めるまで…。

「ええ、ええ、それがよろしいでしょう。」

ジャンセンは何度も頷く。


親父、面白がってるよな?



俺はしばらく村に滞在する事になってしまった。

断固拒否したかったが、雑用をする羽目になっている。


村の力仕事から、ガキ…いや、少年達の世話まで。


ぐわぁ!スティーヴン!お前が欲しい!

心の底から、お前を愛してる!

今、凄くお前が恋しい!


お前は王子でありながら、何の見返りも求めず人のために働き、仕事は丁寧、飯はうまい!

本当に出来た、素晴らしい男だった!


次は人に生まれ変わらせずに、神の御子の従者として俺の側に居て欲しい!!


そいで全ての雑用、たのむ!!おかん!


「レオンハルト、お前の作る料理まずいな!」

「レオンハルトって名前のヤツは、変態が多いらしいぜ!神父様が言ってた!」

「うん、神父様が勇者レオンハルトの名前を語るヤツはろくな奴じゃないって言ってたもんな!」


クソガキどもに好き勝手に言われて耐える俺…。


名を語るも何も、その勇者レオンハルトは俺本人だ!…と言いたい所だが、出来れば認めたくない…。


聖女ディアナンネの生みの親が俺だなんて…。


「俺は…ただの旅人なんで、料理は出来ません。俺が変態なのも、俺の名前がレオンハルトなのも、親のせいです。俺、全然悪く無いですから。」


恨めしそうに目線をジャンセンに向ける。

この野郎…涼しい顔してブドウなんか食ってやがる。


「……私がこの村に来て五年……この近隣の国々は、変わってしまった……」

苦悩するように呟く、ジャンセン神父。

いや、苦悩しながらでもブドウは食うのかよ。


「神父様のせいで?」

あんたが来たせいで?と、素で言ってしまった。


「……フフ…そんなわけ…無いでしょう?…」


笑顔で殺気を飛ばす、ジャンセン…つか親父。


「五年前にバクスガハーツ帝国には聖女ディアナンネ教と言う大きな宗教が出来、教会が建ち、それに伴うように他国への侵略が始まりました。……何かを…欲しているのでしょうね…」


苦悩しているような表情を見せながら、ひそかに笑ってやがる親父。


あんたこそ、何を欲しているんだよ。





「おいレオンハルト!」

「これ、やっとけよレオンハルト!」

「役立たずだな!レオンハルト!」


俺は、いつの間にクソガキどものパシりになっているのだろうか。


この村は、立ち寄った旅人をパシりにするのか?


あー…プチっとやりてぇ…お前らがガキでなかったら、プチ寸前まで追い込んで、生きててスミマセンとまで言わせてやるのに…。


「レオンハルト殿は、なつかれていますね…彼らは、貴方を兄のように慕っているのでしょう。」


嘘つけ!ジャンセンてめえ、ほくそ笑みやがって!兄のように慕ってパシり扱いかよ!



「俺!急用出来たんでサヨナラ!!皆さん、お元気で!」


もう、ガキどものパシりはゴメンだ!

だが、村からは出るなって言うんだろ!?親父てめえは!


俺はガキどもを振り切って、ものすごい速さで村の端に行った。


オフィーリアになる為に。







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