その9
「……あーん」
「ほい」
「パクっ」
焼きまんじゅうを箸で串から外し、雫の大きく開かれた口に突っ込む。
「ふぁっはぁり、ほほのはぁひぃふぁんふぅはほぉいひぃーね」
「だな。……雫、食べ終わってから喋れよ。行儀悪いぞ」
「はーい。今度、なぎさも連れて来たいね」
焼きまんじゅうを飲み込んだ雫が言う。
「そうだな。渚も頑張ってるし、一緒に来るか」
雫の言葉に頷く。
渚とは、雫の妹のことだ。俺のことを、お兄ちゃんと呼ぶ、かわいい妹分だ。
「「………………」」
ふと、視線に気付き、その主──こそこそと会話している、真咲と店主の老婆を見る。
「……?」
雫も不思議そうに首を傾げ、二人を見つめる。
「……これはどういうことでしょうか?」
「ふむ、二人の様子を見るに、日常的に行っているようじゃの」
「日常的……。あぁ、幼馴染みですからね」
「む? 幼馴染みカップルなのか」
「雫によると、『まだ』付き合っていないらしいですよ」
「『まだ』なのじゃな?」
「ええ、『まだ』です」
会話は小さくて聞こえてこないが、二人して笑い合っている。
ほんと、あの年齢差で短時間で仲良くなるって、どっちもコミュ力たけーな。
ややコミュ障な俺や雫からしたら、羨ましくて仕方ない。
「そろそろ帰るか」
真咲と店主の梅花さんが余りにも楽しそうに喋っていたので、大分日が傾いている。
「うめちゃん、じゃーね!」
「また遊びにお出で、さきちゃん」
……この通り。出会って三、四十分ですよ? 孫とおばあちゃんぐらい年が離れているんですよ? 信じられます?
俺と雫はコミュ力魔神(×2)に恐怖し、隅で震えていた。
§§§§§§
「ただいまー」
「「おじゃましまーす」」
雫の家にたどり着く。
「久しぶりだなぁ」
真咲が懐かしむように呟く。
「あ、おかえり。姉さん、お義兄ちゃんと……」
長い髪を靡かせ、動かした顔を驚愕に染める渚。
「まさきちゃん!?」
渚の目が大きく見開かれる。
昔から真咲のこと好きだったもんな。
おや、お義兄ちゃん呼び?