その8
「ここが焼きまんじゅう屋だよ!」
クルリと振り返り、笑顔で告げる雫。
「へー、こんな場所にあるんだな」
「探すの頑張ったんだよ。雨の日も風の日も歩いて探したんだから!」
ここは学校から一駅、俺らの最寄り駅から一駅という、丁度中間の駅から歩いて五分としない場所。
「ネット使えばよかったんじゃ?」
「わかってないなー。自分の足で探すから楽しいんだよ。こういうのは」
と、真咲に向けて胸を張る雫。
もっともらしいことを言っている。だけど──
「機械音痴なだけだろ」
「んーんー? キコエナイナー」
俺の呟きに図星を突かれ、目を泳がせる雫。
「それはいいから、早く食おうぜ!」
真咲の言葉に頷き、雫を先頭に店内に入った。
「いらっしゃい、雫ちゃん」
「今晩は、おばさん」
入り口のすぐ脇に、店主らしき白髪の老婆が居た。その反対側を見ると、大きなテーブルに六つの椅子、様々な種類の駄菓子が雑多に並べられていた。
俺の好きな、レトロな雰囲気だ。
最近は余り見ないうまいバーの味や懐かしい駄菓子に、気分が高揚していく。
「雫ちゃんの彼氏かい?」
「ち、違います……! それに僕は男だよ!」
「ま、頑張れ、雫。性別なんて関係ないぞ」
と、店内の様子に気を取られていると、雫、真咲、店主の三人が、小さな声で会話していた。
内容は聞き取れなかったが、雫は顔を朱色に染め、真咲と店主の二人はニヤニヤしていた。
……いつの間に、真咲と店主は仲良くなったのだろうか。
「そ、それより、焼きまんじゅう!」
「はいはい」
雫に呼ばれ、三人の居る方へと歩いて行く。
「普通のとあんこ入りがあるよ。彼氏さん」
「……? 俺は普通ので」
盛大な勘違いをされている気がものすごーくするが、取り敢えずスルー。
「あたしも普通の!」
「僕はあんこ入り」
「普通が180円。あんこ入りが220円だよ」
それぞれ注文し、椅子に座って待つ。
ちなみに雫の分は当然として、真咲の分も払わされた。理不尽だ。
一分も待たないで、焼きまんじゅうは出来た。
「うまそうだな……」
俺の目の前には串に刺さった四つのまんじゅう。蒸したまんじゅうに味噌だれを塗り、焼かれたものだ。。
食欲をそそる味噌の甘い匂いが、鼻孔をくすぐる。
「……いただきます」
手を合わせ、食べ始める。
味噌だれの味がなんとも言えない。
たれを塗ってから焼いているため、表面は焦げてパリッと、中は蒸したまんじゅうがもちもちしている。
まあ、要するに、
──めちゃくちゃ美味い。
食べ進めていると、視線を感じた。
視線の元を辿ると雫だ。
「……食べたいのか?」
「うん!」
ものすごい勢いで首を縦に振る。
「じゃ、お前のも一個くれ」
残りのまんじゅうが一個になった串を差し出し、雫のものと交換する。
うん、美味しい。
味噌だれとあんこという甘いもの同士であるが、いい感じに調和されている。おそらく、焼きまんじゅう用にあんこの甘さを控えているのだろう。
「はい、しず、く……?」
残り一個のあんこ入り焼きまんじゅうを返そうと振り向くと。
「……あーん」
口を開けた雫が待ち構えていた。
ネット検索できないレベルの機械音痴とは……?
お父さん、雫の将来が心配です。