その7
「なあ、雫」
「どうしたの、たっちゃん?」
放課後。駅までの道を歩きながら、雫、真咲と会話する。
「焼きまんじゅう屋なんて、近くにあったか?」
「……? 焼きまんじゅう?」
隣を歩く真咲が、不思議そうに首を捻る。
「言ってなかったか?」
「秘密にしてたもん!」
俺の問いに答えたのは雫だった。
クルリと、回った雫が口を開く。
「さっちゃん。焼きまんじゅうをたっちゃんが買ってくれるんだよ! 僕たちに!」
嬉しそうにはにかみながら言う雫。
どことなくその言葉に違和感を感じていると。
「えっ、マジか!? ありがと、龍生!」
「ちょっと待て! お前に奢る約束はしてない!」
真咲の言葉に全力でつっこむ。
そんなやり取りをしている間も、雫は上機嫌に歩いていく。
嬉しそうに鼻歌を歌ったり、鞄を振り回したり。歩きながらクルッと回ったり。
おおよそ、男子高校生がする行動ではない。
見た目は子供、頭脳は大人の某名探偵の真逆。見た目は大人、頭脳は子供みたいだ。
「おい。そんなことやってると転ぶ──」
「きゃっ──!?」
最後まで言い切る前に、体が動いていた。
「大丈夫か?」
何とか支えた状態で訊ねる。
これ、結構キツ!
「──う……たっちゃん!」
「おー、よしよし。どうした、雫」
胸に頭を擦りつけるように抱きついてくる雫。その頭を撫でながら、落ち着かせる。
胸の中で顔を上げて雫が口を開く。
「もう子供じゃないもん! それと……」
俺の手を払いのけ、赤く染めた顔で見つめてくる雫。
「怖かった。……ありがと」
「おう」
思わず照れ臭くなって、頬を掻きながらぶっきらぼうに応えてしまった。
一連のやり取りを見ていた真咲が一言。
「ラブコメ繰り広げてるとこわりぃが、お前らいつから付き合ってんだ?」
呆れたように俺らを見る真咲。
その問いに俺はため息混じりに応える。
「付き合ってるわけねーだろ」
「そうだよ! まだ付き合ってないよ!」
隣の雫も否定する。
この話しを終わらせようと、背を向けたから。
「ふぅん。まだ、ね。まだ」
ニヤニヤした真咲の呟きは、耳に入らなかった。
[おまけ・side∶春木想来]
生徒会室。
想来のスマホに映っているのはLI○Eのトーク画面だ。
操作して、別のトーク画面に切り替える。
情報交換用。──桜井龍生と鳴無雫のやり取りや進展を報告する用のグループラインだ。
「お、猪村ちゃんいい仕事してるね」
スマホの画面を覗きながら呟く。
そして。
「こんなところでいいか」
画面に映った文字を見て、思う。
──猪村ちゃんの出現に、雫ちゃんが焦り始めたみたいだね。但し、無意識に、ね。
今後、龍生くんと雫ちゃんの仲がどう近づくのか、楽しみだね!
「送信っと」
こうして、桜井くんと鳴無さんのイチャイチャを観察し、報告し、妄想し、二人をくっつける会は盛り上がっていくのだった。
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