その6
「食うか、雫」
「うん、いただきます」
向かい合って、俺たちは弁当を食い始めた。
「ねぇ、たっちゃん。イギリスで何があったか、聞きたくない?」
「と、言われても、やり取りしてただろ」
誰に、と言われなくてもわかる。真咲のことだろう。
「聞いたっていいじゃん」
「ま、そうだけどな」
頬をぷくー、と膨らませた雫に応える。
「米ついてんぞ」
「ど、何処!??」
米をつけて慌てふためく雫に笑いつつ。
「ほら、ここだよ」
指先を伸ばし。
「~~~!!」
──パクン
米粒を食べる。
「ん、どうしたんだ?」
「な、何でもない……!」
顔を真っ赤に染めた雫が、ブンブンと首を振る。
その姿を見て思う。
男の筈だ。女の子みたいに可愛いすぎるけど、と。
考えていることをおくびにも出さず、弁当を食い進める。
「あの、たっちゃん」
黙っていた雫が口を開く。
「さ、さっきみたいなの、僕以外にやったら怒られるよ……!」
顔を赤くし、目に涙を浮かべた雫の忠告に頷く。
「わかってるよ。そもそも、さっきのやつをやる相手っていったら、雫か真咲くらいしかいないだろ」
言葉を聞いた雫が、半ば呆然としたように。
「さっちゃんにもするんだ……」
何か呟いた。
「何か言ったか?」
「ううん、何でもない!」
雫の態度に、不思議に思っていると。
「ちょっといいかな」
声に振り向くと、一人の男子生徒が立っていた。
「何の用ですか。会長」
「えー、何それ。来たら迷惑?」
声を掛けてきたのは、この学校の生徒会長、春木想来。
「迷惑ですよ」
「そっかそっか。雫くんとの二人っきりのイチャラブ時間を邪魔してごめんね」
何言ってんだ、こいつ。「イチャ、ラ……!!」とか雫が真っ赤にして騒いでんぞ。
「何言ってんですか、会長」
「まぁまぁ、落ち着いて」
おどけたように肩を竦める会長。ほんと、こんな人がよく生徒会長になれたな。
「はぁ。で、何の用ですか?」
「えー、何それ──以下同文」
「同文とかふざけたこと言ってないで、用件を言ってください」
会長は勿体ぶるように、間を置く。
「生徒会室の掃除しといて。またコーヒー溢しちゃった。テヘッ☆」
「……会長」
震える肩をそのままに。
「何だい?」
「そんぐらい自分でやってください! 男のテヘペロなんて可愛いくない! ってか、俺は生徒会役員じゃありませんよ!?」
会長に怒鳴る。
「チッチッチ。それは勘違いというものだよ、龍生くん。私たちは生徒会執行部であり、全校生徒が生徒会なのだよ」
指を振って、推理を披露する探偵っぽく説明する会長。
……不思議だ。仏の桜井(自称)と呼ばれるくらい優しい俺を、ここまでイライラさせる奴がいるとは。
「ま、とにかく放課後に生徒会室に来てくれ。体育祭の準備を手伝ってもらうから」
「いやで……」
「ダメ!!」
断ろうとした俺の言葉を遮る声。雫だ。
「たっちゃんは、僕に焼きまんじゅうを買う約束をしてるの!!」
その言葉を聞き、会長は一瞬だけ驚いたように目を見開き。
「そっか。デートの約束があるんだね。楽しんでくるんだよ!」
何処か、嬉しそうに微笑んで、そう言うのだった。
……焼きまんじゅう。忘れてた。
次回、『桜井くんと鳴無さんのイチャイチャを観察し、報告し、二人をくっつける会』の会話内容が出るかも!?